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2010年03月04日

泣ける話 17 家族との思い出

No.496 【再度】思い出してホローリくる家族との思い出part4 より


80 名前:おさかなくわえた名無しさん 投稿日:03/01/08 22:22 ID:lZJR3zys

正月に帰省して両親を回転寿司に連れてった。いままで帰省しても
地元のツレと遊んでばかりで、親にはかまってやることが無かった。

もう働いているのでお金には困ってないから「好きなもの食え」って
言っても、安い光り物しか食わないんだ。しかもちょっとしか食べない。
帰りに、久しぶりに昔すんでた家の近所を通りがかり、地元の神社へ。
20年ぶり位に親と初詣行ったよ。

帰宅してからも「今日のおすしは美味しかった」と何度も何度も言うお袋。
今までかまってやらなくてゴメンナ。ウルセーなんてもう言わない。
この先あと何回連れてけるかわからないけど、長生きしてくれ。



188 :おさかなくわえた名無しさん :03/03/17 10:19 ID:alvt3/6Z

小学生のとき。
2歳年下の弟が肺炎で病院へ。
「あと2時間遅かったら死んでいた」と医者に言われた。

今お互い三十を過ぎて、それぞれ家庭ももって、それほど裕福じゃないけど
幸福だなと思う。
けんかもたくさんしたが、本当に生きていて暮れてよかったと思う。
年に数回しか会わないけれど、会うたびにちょっとホローリしそうになる。



465 :おさかなくわえた名無しさん :03/06/20 11:32 ID:DV8/k5Fx

つい3~4日前の話です。おじいちゃんが肺の病気で死んじゃいました。
いっぱい泣いて涙も枯れたころ、おじいちゃんの妹さんから話を聞きました。

「あんた(僕のこと)が小学校2年の時ににね、おじいさんと車に
乗ってる時に『止めてー!』って叫んだんだって。それでおじいさんが
『どうしたんや?』って聞いたらあんたが『じいちゃんにタバコを買ってやる』
って言って一番高いタバコを買ってあげたんだって」

神棚にはいつもおじいちゃんの大事にしてたタバコ(ラッキーストライク)
の空箱がありました。おじいちゃんは僕が小学校2年の時に買ってあげた
タバコの箱を後生大事に持っててくれたんです。11年もの間、取っておいて
くれたおじいちゃん。そんなに高い買い物じゃなかったのに、本当にうれしそうな
顔をしてた。。。いつもタバコをしぶーい顔でふかしながら畑で野菜を作ってた
おじいちゃん。思い出が洪水になって押し寄せてきて涙が止まりませんでした。

僕はタバコを吸いませんが、ポケットには280円のラッキーストライク
が入ってます。タバコの煙は臭いけど、おじいちゃんの思い出が一緒に
ふわふわ浮いてるような感じがするから嫌いじゃないなー。

ありがとう、おじいちゃん。またお墓に線香代わりのタバコ持っていくよ。



623 :おさかなくわえた名無しさん :03/07/13 23:32 ID:839LKFxI

何か・・・思い出した

あれは、幼稚園くらいの時だったか・・・
お盆に、初めて母方の婆ちゃん家に親抜きで泊まることになったのね。
従兄弟たちも来ていて、昼間は近くの神社ですっげぇ遊んださぁ・・・

明日も「忍者ごっこ」をしようってことで、すげぇ楽しくてさぁ、
その夜は、従兄弟たちと雑魚寝さぁ・・・

でもなぁ、何故か目が覚めちまうんだよ。何か、寂しいのか、悲しいのか。
婆ちゃん家に着く直前に母と行った喫茶店のこととか何故か思い出されてさぁ
何故か泣いてんのよ、ずーっと泣けてくるの
おかしいなぁ、明日も楽しいはずなのになぁ

そんで、もうどーしようもなくて、隣で寝てる婆ちゃん起こしたわけよ
多分0:00は過ぎててさぁ
今思うとすげぇ迷惑

そんでも、ウチの母は来てくれたね、車で40分くらいか・・・
母に連れられて、実家に帰ってやっと寝れたわけさ
何か、安心した

まぁ、次の年からは、ちゃんと「お泊り」できたけどね

いやまぁ、なんてことない話なんだけどね
このスレ読んでてさ、自分にとっての家族を考えてたら、思い出した

いやぁ、自分は随分とマシな暮らししてるのかなぁ



702 :おさかなくわえた名無しさん :03/08/28 02:10 ID:NkHmkzoz

母の葬式の時、祖母(母の実母)は「親が子供を送ってはいけないんだよ」と言って、
斎場から火葬場への車に決して乗ろうとしなかった。
俺は子供ながらにも疑問に感じ、「何で?何で?」と泣きながら何度も聞いた。
でも、無駄だった。

祖母は、お嬢様育ちで、おっとりした鷹揚な人だった。
それに対して、母は、所謂「いらち」で、ヒステリックなタイプだった。
母は、祖母のやることなすことにイライラしどうしだったし、
祖母は、母の監視・小言を持て余していた。
よく喧嘩もしていた。

母が息を引き取った時も、通夜・葬式でも、祖母はまったく涙を流さなかった。
だから、この時も、「ママのこと、そんなに嫌い?おばあちゃん、冷たいよ」と思った。

でも、見てしまった。
火葬場から帰って来た時、祖母は母の遺品(というより、入院中の荷物)を整理しながら、
家の中で、一人泣いていた。
当たり前なんだけど、祖母にとって母は娘だった。

あとで聞いた話だが、
子供の俺のことを思うと、俺の前では泣いてはいけないと思った、と祖母は言った。
今でも、「親が子供を送ってはいけない」という決まりがあるのかどうか、
定かなことは知らない。



881 :おさかなくわえた名無しさん :04/01/08 21:58 ID:YtJ/D0wh

今日、じいちゃんとばあちゃんにお年玉を貰う
無職の俺にとってはありがたいことだ

じいちゃんは
「早く就職せえよ」と言いながら一万五千円

ばあちゃんは
「まあ、急がんでええから」と言いながら一万円くれた

でも、何故今日貰ったんだろう
いつもじいちゃんとばあちゃんの家にいるから元旦に貰えるはずなのに・・・

と考えてるところで目が覚めた

そうだった。
じいちゃんもばあちゃんももう亡くなってたんだった
だからお年玉も貰えないんだ
貰うときにふと感じた違和感はこれだったんだ


でも、ありがとう
大事に使うよ



  


Posted by アマミちゃん(野崎りの)  at 14:23Comments(0)泣ける話

2010年03月04日

泣ける話 16 嗚咽

No.497 嗚咽その10 より


14 :大人の名無しさん :2006/12/05(火) 02:13:22 ID:mSy5QmK0

俺を生んでくれた母親は俺が2歳の頃に死んだ。

後の親父の話では元々、体が丈夫な人じゃなかったらしい。
俺が6歳の頃に親父が再婚して義母がやってきた。

ある日、親父が「今日からこの人がお前のお母さんだ」といって連れてきた。
新しい母親は俺を本当の子供のように可愛がってくれた。

家族とか血縁とかまだ分からない頃の俺にとって義母が本当の母親だった。
それから、何年か経ち俺が中学の頃、今度は親父が事故で帰らぬ人となった。

親父の葬式の席で親族が集まりこれからの俺たち家族の事で話し合うことになった。
親父の両親(俺から見て祖父母)は既に無く親戚づきあいも疎遠で葬式には親父の親族は誰も来なかった。
後から知った事だが親父はガキの頃に両親を亡くし親戚中をたらい回しにされ。
おまけにひどい扱われようだったらしい。
そんな事もあり自分が大人になって働き出してからは一切、縁を切っていたらしい。
まあ、そんな状況もあり今後の俺たち親子の事を生母、義母側双方で話をする事になった。

元々義母の両親は義母と親父との結婚に反対していた。
まぁ親としては娘の結婚相手にコブ付きだとやっかむの当然かもしれない。
また生みの母の両親は、まだ若い義母の事を考えて俺を引きと取ると言い出した。



15 :大人の名無しさん :2006/12/05(火) 02:16:04 ID:mSy5QmK0

双方の親の利害が一致して俺は生母の家に引き取られると決まりかけた時。
それまで双方の話を聞くだけだった義母が口を開いた。

「この子は私の子です。例え血が繋がって無くても私の子供です!」
「お願いですから、この子は私に任せてください。」

物腰の柔らかい義母が珍しく語気を荒げていた。
出会ってからはじめて見たそんな義母の姿に俺は驚きを覚えた。
最初は難癖を付けていた双方の両親も最後には義母に折れる形となり。
俺は義母と二人で生活することになった。
稼ぎ頭の親父が死んで義母は必死で働いた。
受験で大変な時期の俺を育てる為に必死で働いてくれた。

高校3年の時、俺は家の事情もあり進路は就職すると決めていた。
しかし、その話を聞いた義母は

「大学に行きなさい。」と言った。
「お金は母さんが何とかするからあんたは大学に行きなさい。」

なんで、実の息子でも無いのにそんなに俺に一生懸命なんだろう?
俺は半ば呆れながらそんな義母の言葉が嬉しくて思わず泣いてしまった。

そんな義母の言葉に背を押され少し遅れて受験勉強。
家の事情を考えると浪人は出来ないし、そんな事で義母を落胆させたくなかった。
元々、勉強は出来るほうじゃないので入れた大学も大した大学じゃなかったが
それでも合格と聞いた義母の涙混じりの笑顔は今でも忘れられない。



16 :大人の名無しさん :2006/12/05(火) 02:17:12 ID:mSy5QmK0

大学に入ったが俺は生活費分ぐらい自分で何とかしようと決めていた。
高校の時もそうだがアルバイト三昧の日々で良く留年しなかったものだと今でも不思議に思う。

大学も何とか無事に四年で卒業が出来、就職も決まり俺は晴れて社会人になった。
最初の初任給で義母にプレゼントを買った。
さすがに俺のプレゼント(たいしたもんじゃないけど)には参ったのか
ありがとう、ありがとうと言いながら泣く姿に俺も思わず貰い泣き。
ほんと、感謝しなきゃならないのは俺の方です。

それからは二人でつつがなく暮らしていたが、俺も30の手前で結婚したい相手が出来た。
最初は俺の結婚を義母がどう思うかと思っていたが大喜びで歓迎してくれた。

「あんたもこれで一人前だね」
と言われて照れくさいやら恥ずかしいやら。最初は一緒に暮らそうと言ったが
「お嫁さんに悪いから母さんはここで暮らすよ」と断られる。

いやいや、かみさんも賛成してくれてるんだけど...。
何度か話はするもののの結局、離れて暮らすことに。

でも、結婚して一年経って義母が倒れた。
幸い大事に至らなかったが、今後、同じ事が有ってもいけないと思い。
断っている所を半ば強引に同居することに。
その間、孫の顔も見せることが出来たしかみさんとも上手くやってるしで本当に幸せそうだった。

でも先月、その義母が他界。
くも膜下出血であっけなく死んでしまった。

通夜の席でかみさんが義母の話をしてくれた。
正直、この年になるまで義母のそれまでの人生を聞いたことが無かった。
かみさんは義母から色々、聞いていたらしい。



17 :大人の名無しさん :2006/12/05(火) 02:18:08 ID:mSy5QmK0

義母は親父と結婚する前に子供が生めない体だったらしい。

最初はそんな事もあり結婚を断っていたそうだが、親父はそんな事情を承知で

「俺たちには子供がいるじゃないか、俺の息子の母親になってくれないか?」
の言葉に義母は涙ながらに承諾

親父も人前も憚らず泣いていたそうで。義母曰く
「あんなみっともないプロポーズは無かったけど嬉しかった」との事


その話を聞いて俺はやっと理解できた。


そして言葉にならなずに涙だけが溢れて仕方が無かった。
今までかなり泣いたけど息が苦しくなるほど泣いたのは初めてだった。
ぶっきらぼうな親父の優しさもそうだが親父のプロポーズを最後まで純粋に受け入れた義母に
言葉に出来ない思いがこみ上げてきた。

かみさんもそれ聞いた時は涙が止まらなかったそうで俺に話しながらまた号泣。
子供たちも泣いてる俺たちを見てつられて泣き出す始末。

義母いや、母さん、血は繋がってないけど貴方は俺にとって本当の母さんです。
生みの母には悪いけど、俺にとって貴方以上の母はいません。


親父、そっちで会ったら誉めてやってください。
貴方が選んだ人はとても素晴らしい人でした。

最後に母さん、もし生まれ変われるならまた貴方の子供に生まれたい。

今度は貴方の本当の子供に生まれ変わりたいです。
突然に逝ってしまって改まって感謝することが出来なかったけど、本当にありがとう。


  


Posted by アマミちゃん(野崎りの)  at 14:18Comments(0)泣ける話

2010年03月04日

泣ける話 15 涙が出るほどいい話

No.498 涙が出るほどいい話 より


601 :癒されたい名無しさん :04/08/25 15:23 ID:md/Yp+Xl

俺の会社の友人。
4年ほど前に交通事故で奥さんと当時4歳の長男を亡くした。
飲酒運転の車が歩行中の二人をひき殺すというショッキングな内容で、ワイドショーとかでも取り上げられたほど凄惨な事故だった。

後日談を聞くと加害者の家族もかなりつらい日々を送ったようで、今となっては同情はするが、
当時は友人の悲しみよりも加害者への怒りが大半だったのを憶えてる。
まだ娘(当時1歳)がいたことがせめてもの救いだったけど、葬儀に出席した会社の女の子なんか、
その娘の顔を見るなり泣き崩れてたよ。

その後仕事も辞めようと思ったらしいが、娘のためにと仕事には復帰。
しかしその後の育児、仕事などは大変だったと思う。
俺もそうだが会社やご両親、ご近所さんも含めて何かと気に掛けて助けられることは助けてきた。

で去年、そいつが事故後初めて家に招待してくれて、数人で一緒に鍋をつついた。

そしてある和室を見せてくれたんだけど、その部屋だけはまったく片付けてなく洗濯物とか黄色くなってたたんであるまま。
透明の衣類ケース?みたいのやおもちゃも無造作に置いてあって、奥さんと長男が最後に使っていた部屋ということで当時のまま残してるとの事。
で、気丈なそいつも、今でもその部屋を見るととても直視できない状況で、俺らに説明しながら涙があふれてきてる。

そしたら娘が来て、笑いながら
「お父さんがんばろうね。裕太くんが見てるもんね。」って言うんだよ。

裕太ってのは長男の名前なんだけど、当時のことなんか娘は知るよしもないわけで、つらい事だけど娘にはちゃんと説明してるんだよね。
二人でお母さんやお兄ちゃんのことを忘れないで、そうやって声を掛け合ってるわけよ。

励まそうと思ってやってきた俺らだけど、逆に力をもらったよ。
酒が入ってたのもあるけど、どんどん涙が出てきて・・・泣いた。

みんなもがんばれよ



656 :コピペ :04/09/05 21:43 ID:HTzNbDxE

ホームに滑り込んできた電車に飛び込もうと身構えた

その瞬間、隣のOLが先に線路めがけて飛び込んだ。
あっと言う間の出来事だった。
思わずそれに続いて俺も飛び込んだ。
急ブレーキをかける音が駅一帯に広がった。
ほんの数秒間ホーム全体が静寂に包まれた。
少々のかすり傷で俺と彼女は救出された。
またたく間に拍手と喝采で周りはにぎわった。

あれから5年後俺達は3人の子宝に恵まれ
ささやかながら幸せな毎日を送っている。

俺の妻となった彼女には、あの日自殺を図ろうとホームに
立っていた事は冥土の土産にする予定だ。

今は妻に俺の命を救ってくれたことを心より感謝している。



370 :名無しさん@お腹いっぱい。 :04/07/23 11:03 ID:XBAS2ClT

うちの親達、漏れが生まれてから
休まずにもう30年以上、夫婦で食い物屋をやってるんだ
その間、人に騙されてかなりの額の借金を背負ったりして
本当に苦労ばかりしててね

でも、人をうらんだりする姿なんて二人とも一度も見せなかった
そして漏れら兄弟数人の事、大事に育ててくれたんだ
いつも働きづくめで金策で泣きそうになってたはずなのに

自分が大人になった時に、父親がこう言ったんだよ
「人間はね、お金じゃなくて、人や気持ちが財産なんだよ」って

年に2~3日しか休まず長い間ずっと頑張ってきた事
それだけでも本当に尊敬してるのに
金関係でかなり苦労もしてきたのに
人に騙される事も何度もあったのに
こういう風に言える親を、漏れは心から尊敬してる



631 :癒されたい名無しさん :04/09/04 01:13 ID:u4/w7n12

俺は数年前、仕事で躓いて自暴自棄になっていた。
毎日家では文句を言い、両親にあたり散らして、なにもかもヤケクソになりどんどん荒んでいった。

そんなある日、嫁いだ姉が日帰りで来たみたいだったが俺は帰宅が深夜になって会わなかった。
そして自分の部屋の戸を開けたら手紙と俺の好物のお菓子が置いてあった。
手紙には「なんか仕事が大変みたいだけどこれでも食べて元気をだしなよ。」
さらに手紙の最後に「会社なんかに負けるな!!ガンバレ!!」と書いてあった。

いつも生意気な口ばかりきいていて、結婚が決まった時はもちろん、嫁ぐ時だって照れくさくて
「おめでとう」すら言ったかどうかも記憶にない俺のことを心配してくれていたと思うと涙が出た。

このことは一生忘れない。



632 :癒されたい名無しさん :04/09/04 01:31 ID:aKZ5XXWY

うちの母は、小さい頃から「人のためになることをしろ」と子どもに教えてきたのよ。
だから、大人になってなんの疑いもなく骨髄バンクに登録したんだ。
知らせたら「それはいいことだね。いつか提供できるといいね」と言っていた。

で、ドナーに選ばれてさ。
「その人が元気になれるといいね。登録しててよかったね」
と母は言っていたわけよ。自分でもそう思ってた。

ところがですよ。いざ、提供の最終同意の段になったら、ものすごく険しい顔で
「心配なんです。後遺症が残るんじゃないか、本当に無事に終わるのか」なんて言い出した。
何言ってんだよ。俺が登録するって言った時も、ドナーに決まったって言った時もずっと賛成してたじゃんか。喜んでたじゃんか。

そう言ったら、言うわけよ。
「心配なんだよ、親なんだから。お前が心配しなくていいって言ったって、親なんだから心配するんだよ!」
だから、俺は言ってやった。
「極当たり前に、人のためになることをしようと思えるように俺を育てたのは母さんたちだろう。心配ないよ、絶対大丈夫だって」
それで、提供の入院するときも、完全看護なのに毎日見舞いに来てくれてさ。
いらないって言ってるのに、心配だから行くんだって怒るんだよ。
まったく、勝手だよな、親ってさ。

で、無事に骨髄採取してさ。そしたらさすがにショックで血圧下がって、氷みたいに体が冷たくなっちゃってさ。
電気毛布とかかけられて寝てるとき、母が手を握り締めてきて、言うのよ。
「無事に終わってよかったね」
手が、ものすごくあったたかった。 きっと、あのあったかさは忘れない。



44 :名無しさん@お腹いっぱい。 :04/04/27 20:51 ID:r6n5n5mV

父が死んで一年になる。
父は母の再婚相手で、俺が小学生の時に突然父親になった。

当初は「父さん」と呼べず、悲しい思いをさせたかもしれない。
「○○(父の名)さん」と息子に呼ばれるのはどんな気持ちだっただろう。
息子に「本当の父さんじゃないくせに!」と言われる父はどんな気持ちだっただろう。
毒づき、当たり散らす息子にとても手を焼いていたと思う。

俺が中一の時に事故で両足を折ってしまい、歩けなくなったときがあった。
その時期に期末テストで、追試はほぼ決定だと思っていた時、父がおぶって学校まで連れて行ってくれた。
学校に近づくにつれて他の生徒の好奇の目に晒されている気がして、俺はとても恥ずかしくなった。
実際中一にもなって父親におぶられている俺をクスクス笑う女子もいた。
そんな折、ふと父の顔を背中越しに見ると、とても堂々としていた。

「自分の息子をおぶって何が悪い?」今にもそう言いそうな表情で。

謝罪も感謝の言葉も贈れないまま、父はもう二度と会えないところへ行ってしまった。

俺には叶わない夢がある。
もし父が歩けなくて困ってしまうような時がきたら俺がおぶってやる。 叶わない夢だけど…

  


Posted by アマミちゃん(野崎りの)  at 14:17Comments(0)泣ける話

2010年03月04日

転生~祟られ屋シリーズ③

転生


583 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 02:42:48 ID:I4yj/tj40
この話は長い上に後味が劇悪です。
あと、思い当たる人が居たら知らない振りと言うことで。
登場人物が多いので名前を付けますが、当然すべて仮名です。

皆さんは「生まれ変わり」を信じるだろうか?
俺は何となく、そんな事もあるかも、と思っていただけだった。
その日、俺はマサさんとコンタクトを取るために某所に向かっていた。
高速に乗るまで1時間、高速にのって3時間ほど。
その日の朝まで、俺はある「女」と2週間ほど潜伏していた。
落ち合ったマサさんは、韓国と日本での調査の結果と1枚の黄色く変色したモノクロ写真を出した。
俺の背中にぞくっと冷たいものが走った。
その写真の女は俺がガードしていた「女」、ジュリーこと姜種憲(カン ジョンホン)に瓜二つだったからだ。




584 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 02:43:34 ID:I4yj/tj40
話はその1ヶ月前に戻る。
俺はキムさんの会社の権(ゴン)と言う男に呼び出された。
権さんはキムさんのボディーガード4人のリーダーだった。
韓国生まれの韓国人。テコンドーの達人と言う事だ。
他の3人、文(ムン)、朴(パク)、徐(ソ)の3人は在日朝鮮人。
同じ空手道場の先輩・後輩だった。

前回の話の後に結んだ俺とキムさんの契約では、権さんと俺は同格扱いだった。
3人は明らか不満顔だった。
権さんに言われて、俺は一番若い徐とタイマンを張らされた。
徐は強かった。
結果は、俺が苦し紛れに入れた頭突きと、鼻への指入れによって痛み分けとなった。
しかし、俺はアバラを折られ、2週間ほど酷いビッコとヨーグルト等の流動食しか喰えない生活を余儀なくされた。
だが、それ以来、俺は3人と意気投合し、彼らの空手道場にも出入りするようになった。
結果的に丸く収まったのだ。
3人は恐ろしく強かった。
素手でも人を殺める事が出来る力を持っているのだろう。
そんな3人は権さんを極度に恐れていた。
刃物のような冷たい殺気と、人を萎縮させる雰囲気があって俺も苦手だった。


585 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 02:44:26 ID:I4yj/tj40
事務所に着くと権さんは1本のVHSのビデオテープ出し、「まずはこれを見てくれ」と言って、テープを再生し始めた。

ビデオの画質はコントラストがキツ目だが、そこそこ鮮明だった。
キングサイズのベッドの上に、フランス人形のようなヒラヒラした服を着た、黒髪の東洋人らしい少女が映っていた。
かなりの美形だ。
歳は14・5歳、いや、もう少し若いか?
男が何かを質問し、少女が答える。
やがて黒い目出し帽を被ったブリーフ姿の肥った白人の中年男性が少女に近づいた。
どうやら、これは違法なキッズポルノの類らしい。
撮影者が動いて様々なアングルから二人を映す。


586 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 02:45:14 ID:I4yj/tj40
それは見ていて最悪に気分の悪くなる映像だった。
やがて、アングルは定点になり、二人の男が一人の少女を犯す映像が延々と続いた。
全裸にせず、着衣のままと言うのがマニアックだった。
肥った中年の白人男性は大きいが硬さのないペニスをしつこく少女に舐めさた。
もう一人の筋肉質の体をした若い白人男性はローションを塗りたくったペニスで少女の尻を突き続けた。
やがて若い男が中年男の尻を突き、少女は突いている男の尻を舐めはじめた。
若い男が中年男性の尻に中出しした精液を少女が肛門から口で吸い出し、掌の上に吐き出すシーンになって俺は吐き気を覚えた。

やがてビデオは終わった。
俺は憮然としながら権さんに「何ですかこれは?」と聞いた。
権さんは「社長たちが仕事をしている間、私と組んで彼のガードをしてもらいたい」
俺の思考は一瞬停止した。・・・彼?・・・誰?


587 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 02:46:08 ID:I4yj/tj40
権さんの話だと、ビデオの男達は変態向けのエロビデオやエロ写真を撮って裏に流していた業者らしい。
そのビデオでは終始スカートを履いていたし、はだけて見えた胸も膨らんでいたので気付かなかったが、少女は・・・少年だったのだ。
この二人の犯罪の発覚は非常にショッキングだった。
モーテルの部屋で惨殺されていたのだ。
死体はかなり凄惨な状態だったようだ。
背後から銃で撃たれたあと、ナイフで切り刻まれていた。
警察によって被害者宅から無数のキッズポルノのビデオが発見された。
犯行現場に残されたビデオカメラに入っていたテープにファックシーンと共に惨殺シーンが映されていた。
違法な児童ポルノで荒稼ぎした鬼畜共は、スナッフビデオに出演してその一生を終えたのだ。
この事件は一時期、児童ポルノ業者が殺された事件として報道もされたらしい。



588 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 02:47:00 ID:I4yj/tj40
この2人を殺したのが彼だった。
ビデオ出演は男娼が多く立つ街角に立っていて目を付けられたらしい。
少年・種憲は「被害者」として保護観察となった。
長い期間、精神病患者として入・退院を繰り返し、保護観察期間が終ると家族と共にカナダに移住した。
キムさんはカナダの在住韓人コミュニティーの紹介でカナダに渡ったのだ。
種憲の家族構成は、養父の白人男性、韓国人の伯母。
夫妻が妻の妹の子供を引き取る形で養子となった。
渡米時の年齢は12歳。
事件は15歳の時に起したものだった。


589 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 02:47:48 ID:I4yj/tj40
俺は権さんに「ボディーガードなら俺より他の3人の方が適任だと思いますが」と言った。
しかし、権さんは「いや、あいつらには無理だ。
奴らは確かに腕は立つ。
ルールのあるスポーツなら私もあんたもまず勝てない。
でも、スポーツマンじゃ駄目なんだ。
パン・チョッパリは、土壇場で芯がないから駄目だ。
今回は使えない。殺されるのが落ちだ」と言った。
・・・酷い言い草だな・・・しかしそんなにヤバイのか?
「詳しい話は社長に聞いてくれ。
正直な所、私はこの仕事を下りたいよ。
虎と一緒の檻に入って見張るようなものだ。マトモな奴には無理だよ」
・・・無茶言うな・・・俺はマトモじゃないってか?・・・それも酷いような・・・

数日後、キムさんが帰国した。
そして、更に1週間後、問題の彼と母親のバーク夫人が来日した。


590 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 02:49:35 ID:I4yj/tj40
キムさんとバーク夫人の話を総合すると、大まかにはこう言うことだった。

彼がバーク夫妻に引き取られたのは韓国で彼が家族を失ったからだった。
彼は9歳の時に当時3歳の弟を事故で失っている。
その後、両親は離婚し、彼は母親に引き取られた。
11歳の時に父親が火事で死亡し、その後すぐに母親も自殺している。
彼の家は父方は祖父の代で一族から絶縁されており、父親に兄弟は居なかった。
母親には親族が居たが、彼の父親とは族譜上の問題があったらしい。
一族の反対を押し切る形で結婚した為、夫と同じく絶縁されていた。
彼を引き取り養育する者は、バーク氏と結婚して渡米した伯母しか居なかった。
バーク夫妻には子供はなく、彼は夫妻に歓迎された。
バーク家に来た当初、彼は一見普通の少年だった。
しかし、すぐに異変は起こった。


591 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 02:50:30 ID:I4yj/tj40
バーク夫妻はビジネスで成功を収めており、夫婦ともに多忙だった。
彼の世話は主にメイド?がしていた。
英語も初歩的な日常会話がやっとのレベルであった彼は学校へは行っておらず、家庭教師がついていたらしい。
彼は放置状態にあった。
そんな中、彼は家庭教師を誘惑し関係を結んでいた。
家庭教師は本来はノーマルだったらしいが、種憲とのホモの関係が夫人に露見し解雇された。
やがて彼は街角に立つようになり、例のビデオ屋に拾われた。
女性ホルモンの注射もビデオ屋の手によるものだった。
彼の保護観察期間終了後、バーク家は世間の目を逃れるようにカナダに移住した。
移住後数年、彼の外見は美しい女性の姿になっていた。
そして、バーク家に破局が訪れた。
彼が義父であるバーク氏を誘惑し関係を結んでいたのが伯母に露見したのだ。


592 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 03:06:16 ID:I4yj/tj40
バーク氏はキムさんに「悪魔に魅入られたように、『彼女』の魅力に抵抗できなかった」と語った。
夫人は半狂乱になって種憲を問い詰めた。
彼は何かに取り憑かれたかのように、狂気じみた高笑いをしながら韓国からの経緯を夫妻に話した。
弟の事故死は彼による殺人だった。
高層アパートのベランダから弟を投げ落としたというのだ。
母親と父親の離婚の原因は、彼が父親と関係しているのを母親に見つかったからだった。
母親は、彼の父親が彼を無理やり暴行していたものと思って離婚に踏み切ったが現実は違った。
彼が父親を誘惑し関係を結んだのだ。
離婚後も彼は父のアパートに通い関係を続けた。
ある日、種憲は不眠症となっていた彼の母親の薬を酒に混ぜて父親に飲ませた。
そして、父親が寝付いたのを確認して、石油ストーブを蹴り倒して父親を焼き殺したと言うのだ。


593 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 03:06:59 ID:I4yj/tj40
バーク夫妻は彼を沢山の精神科医やカウンセラーに診せた。
話の内容よりも、彼が一瞬垣間見せた、悪魔に憑かれたかのような狂気に恐れを感じて。
あるカウンセラーが退行催眠という手法で治療を施した時、彼の口から思わぬ言葉が出てきた。
「自分は日本のXX県OO市に住んでいた林善太郎の妻、林サチエだ。
夫が雇っていた朝鮮人、姜時憲(カン シホン)にお腹の子と共に殺された。
姜一族を根絶やしにして、夫と子供の恨みを晴らすために転生した」と言うのだ。
バーク夫人は驚愕した。
姜は彼の父親の姓だった。そして、時憲と言う名は確か、彼の祖父の名だと思い当たったのだ。
彼女は韓人コミュニティーの祈祷師を頼ったが、「これは祓えない」と言われてしまった。
何人かの祈祷師・霊媒師を経て、カナダ在住の貿易商経由でキムさんにこの話が伝わった。
キムさんが北米で、マサさんが日本と韓国で動く事になった。


594 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 03:07:43 ID:I4yj/tj40
マサさんは、まず韓国で姜家を当った。
問題の種憲の祖父、時憲には兄がいた。
姜相憲(カン サンホン)である。彼は韓国で存命だった。
林善太郎、林幸恵は実在の人物だった。

相憲は日本に出稼ぎに来て、材木商を営んでいた林家に雇われていた。
林家の当主、善太郎は人格者としてその地域で多くの人に慕われていた。
朝鮮人の内地渡航が制限されていた折、密入国同然で日本に渡り、行き倒れていた相憲は善太郎に拾われた。
彼は善太郎に感謝し、恩に報いる為に一所懸命に働いた。
善太郎は相憲に信頼を寄せるようになり、国に残した弟も呼び寄せてはどうかと彼に言った。
相憲は弟・時憲を呼び寄せた。
内地に渡った時憲も人一倍頑張って働いた。




595 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 03:08:26 ID:I4yj/tj40
善太郎には親子ほどに歳の離れた後妻の幸恵がいた。
まだ10代で、雇い人の中で一番若かった時憲に幸恵は優しかった。
時憲は幸恵に恋心を抱いていたようだ。
ある晩、善太郎の留守に時憲は本宅に忍び込み幸恵を襲った。
幸恵の悲鳴に家人が殺到し、時憲は他の雇い人達に半殺しにされたようだ。
その時に負った傷が元で、時憲は顔面麻痺で顔の片側が引き攣ったままになった。
相憲は善太郎に土下座をして謝罪し、受け入れられた。
時憲は隣町にある製材所に飛ばされ、年末年始の挨拶といえども本宅に近寄る事は許されなかった。
幸恵が時憲に酷く怯えていたからである。

やがて終戦となった。
善太郎は朝鮮人の雇い人に国に帰るもよし、このまま残って働くもよしと言い、半数ほどが日本に残る事になった。
相憲・時憲兄弟もそのまま日本で働く事になった。
敗戦に街の雰囲気は沈んでいたが、林家に明るいニュースが生まれた。
幸恵の懐妊である。
善太郎にとって諦めかけていた初めての子。
林家は喜びに沸いた。


596 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 03:09:25 ID:I4yj/tj40
そんなある日、善太郎は相憲を伴って遠方へ商談に赴いていた。
非常に大きな商談だったらしい。
商談が纏まり、林家に戻った善太郎と相憲を待っていたのは、とんでもない悲劇だった。

妻の幸恵が暴行された上に絞め殺され、手提げ金庫ごと多額の現金が持ち去られていた。
賊は更に屋敷にも火を放っていた。
それだけではなく、林家の材木置き場にも火は放たれた。
長い間雨が降っていなかった冬の強風の夜、火はあっという間に広がり町を広範囲に灰とした。
戦後の物不足の折、材木不足も深刻で、備蓄の全てを失った林家は契約履行に必要な材木の手当てがつかず多額の賠償を負った。
幸い、雇い人の宿舎は離れた場所にあったので、雇い人は全員無事だった。
大火の晩、姿を消していた時憲を除いて・・・
幸恵殺しと放火は時憲の仕業とされたが、三国人の犯罪に警察の動きは鈍かった。
そして、雇い人の放火で火事を起した林家には町の住民への賠償も圧し掛かった。
林家は破産した。


597 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 03:10:18 ID:I4yj/tj40
相憲は善太郎に暇を請い、捕らえて自首させるべく、時憲の跡を追って日本中を回ったと言う。
ある時、相憲は同じ町で働いていた朝鮮人の男に善太郎の死を聞かされた。
「せめて線香の一本でも」と町に戻った相憲は、町の人々に墓参りも許されないまま石を以って追われた。
町から朝鮮半島に渡っていた家庭は多く、引揚船で戻ってきた引揚者の惨状が広まっていた。
特に女子供の受けた仕打ちを見聞きして、朝鮮人に対する感情が最悪となっていた。
何より、町の名士から受けた恩を仇で返して破滅させた朝鮮人、極悪人・姜時憲の名は忘れられてはいなかったのだ。

暫くして相憲は帰国船に乗って韓国に戻って行った・・・

相憲は朝鮮戦争後の韓国で、日本とのコネクションを活用して貿易商を営んでいた。
ある日、相憲の所に男児を連れた時憲が現れた。
相憲の成功を聞きつけてやって来て「たった2人の兄弟だ云々・・・」と言って、時憲は相憲を頼ろうとした。
相憲の血は逆流した。
相憲は林家を慮って、妻も子も設けなかった。
時憲に暴行され子供を身篭り、結婚させられた歳若い妻と息子がいなければ、その場で時憲を殺していただろうと相憲は語ったと言う。
相憲はかなりの額の手切れ金を「妻と子の為に」渡し、時憲に絶縁を言い渡した。


598 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 03:11:12 ID:I4yj/tj40
マサさんは姜相憲の話を手掛かりに日本に戻った。
林家の菩提寺を訪れたが、林家は既に断絶していた。
マサさんは住職に姜相憲から預かってきた金を渡し、林家の供養を依頼すると共に当時のことを知っている人物はいないかと尋ねた。
住職は金を固辞した。
林家は檀家を追放され、寺の墓地にも林家の墓はもうないと言う事だった。
ただ、林家から檀家総代を引き継いだ大森家は林家の親戚であり、当時を知っているご隠居さんは100歳近くで健在だった。
マサさんは住職の紹介で大森家を訪ねた。

大森家の長老は当時のことを鮮明に覚えていた。
その部落には歳若くして亡くなった死者の背中に筆で名前や家紋を書いて葬る習慣があったそうだ。
そして、文字や家紋の「痣」のある子供が生まれると、死者を葬った家と赤子の生まれた家とは新たに「親戚」となるのだという。
親戚となった両家は子供によってもたらされる福運により発展するのだと言う。
子供の痣は、死者を葬った墓の土を水で溶いたもので7日間洗い続ければ落ちるのだそうだ。


599 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 03:11:55 ID:I4yj/tj40
幸恵の体にも善太郎の手により家紋が墨書されたという。
やがて、全財産を失い孤独の身となった善太郎は、町外れの洞穴に住み着いていた祈祷師の元に通うようになった。
祈祷師と善太郎が洞穴でなにをしていたのかは判らない。
だが、善太郎は妻の死から2年後に発狂した。
土葬された妻の墓を暴き、洞穴で割腹自殺したのだ。
暴かれた幸恵の遺体(骨)の殆どは善太郎に「喰われて」残っていなかった。
幸恵の実家の父親が若者を駆り出して祈祷師を捕らえ、事情を聞きだした。
詳しい内容は判らず仕舞いだが、どうやら善太郎の行動は呪いの儀式だったようだ。
それも、檀家総代が先祖累代と共に寺から追放されるような外法であった。

マサさんは大森家で話を聞くと共に、1枚の写真を貰い受けてきた。
林幸恵・・・女性化した姜種憲に酷似した、若い女の写真だった。


600 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 03:13:31 ID:I4yj/tj40
キムさんに伴われて連れて来られた姜種憲・・・ジュリーは美しい「女」だった。
ニューハーフ、特に性転換して完全に女性化した者の中には、本物の女よりも美しく物腰も女性らしい者が少なくない。
しかし、どんなに美しく優雅な物腰でも違和感は隠せない。
少なくとも、女だけでなくニューハーフともかなり遊んだ俺には判る。
その違和感の部分が堪らないのだが・・・
女性経験のない男性諸氏はニューハーフには近付かない事だ。
ある意味「違和感」とは、若い男が女に抱いている妄想や幻想そのものだからだ。
だが、ジュリーには、その「違和感」がなかった。
精神、いや、魂の根本から女性なのだ。

とにかく、ジュリーの美しさにはゾクッとくる迫力があった。
それは天性の危険な魅力。
この女の為なら破滅するのも悪くはない、と思い込んでしまっても無理はない魅力があった。
まさに「魔力」。
事実、彼女は「女」になる前から、普通の異性愛者だった男も虜にして何人も破滅に導いているのだ。



601 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 03:14:30 ID:I4yj/tj40
危険この上ない女だった。
自発的にではなく、砂鉄の中に磁石を放り込まれたかのように、有無を言わせずに引き込まれ、情欲を沸き立たされる「何か」があった。
確かに、ただの空手屋には手に負えまい。
何日も一つ屋根の下にいれば、我慢できずに襲い掛かりかねない。
だが、コイツは猛毒の針を持った食虫植物のような女なのだ。
だからと言って、女でも駄目だ。
どういう訳か、ジュリーは美しさ故と言うわけでもないのだろうが、女から敵視され、しばしば殺意さえ持たれた。
彼女の母親となったバーク夫人でさえ、彼女を押さえ付けて犯していた夫ではなく、ジュリーに殺意を抱いていた。
事前情報の「彼女が誘惑して」と言うフレーズには、バーク夫人とジュリーと関係を持った男達の主観が大きく作用しているのだ。

俺は仕事でストーカーからのガードをしたこともある、ニューハーフのアリサに身の回りの世話の為、同行を依頼した。

アリサは日本人のニューハーフだ。
帰国子女で英語にも堪能。
ジュリーと同様、近親者に慰み者にされた末に放逐された過去を持つ。
さらに、鋭い霊感を持っていた。
アジア系のニューハーフで美しいのは、タイ人と韓国人が双璧だと俺は思っている。
しかし、アリサも「生まれつき」の女にも、ちょっといないレベルの美人だった。
いや、ジュリーもそうだが、神が何かミステイクを犯して彼女達にY染色体を配分してしまっただけで、彼女達はあくまで「女性」なのだ。



606 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 04:02:10 ID:I4yj/tj40
アリサの通訳を介して俺はジュリーに色々と質問をした。
予想通り、ジュリーは「意識的に」男を誘惑したことはなかった。
彼女の主観では、むしろ男に襲われ嬲り者にされ、女からは常に敵意を向けられてきた。
女性に対する恐怖は死んだ母親やバーク夫人の影響が強いようだ。
韓国にいた頃は同級生や上級生の女児から酷いいじめを受けており、大人の男性から性的な悪戯もされていたようだ。
彼女の凶暴な側面が現れたのは、発作的に弟をマンションのベランダから投げ捨てた時からだった。
父親から性的な暴行を受け、母親から激しい折檻を加えられている自分と弟を比べて堪らなくなったと言うのだ。
それ以来、彼女は時々自分自身では制御できない衝動に駆られて行動するようになった。
父親の時も、街角に初めて立ったときも、バーク氏の拳銃を持ち出して使った時も・・・
始めは襲われて無理やりだったのに、そのまま男達と関係を続けてしまったのは、自分を「女」と確認する為だったらしい。
それと、逃げたり拒絶する事に強い恐怖を感じていて、抜け出せなかったとも語っていた。
彼女本来のキャラクターは、気弱で大人しく、いつも他者から傷付けられる事を恐れている、か弱い女性のものだった。
だが、その「いかにも」な性格の反面として内在している彼女の「獣」は凶悪で危険だった。

俺の中の警報装置は、危険!危険!と赤ランプを点滅させっぱなしだった。

父親のバーク氏は「娘」を取り戻そうとして見境の無い状態になっていた。
カナダからの情報では、かなりの金を使って日本で人を動かしている。
凶暴化したジュリーが脱走する恐れもあった。
乗ってきた車も文たちに持って帰らせ、俺達は完全な缶詰め状態で潜伏を続けた。
マサさんが「準備」を済ませ、潜伏中の俺達に連絡してきた時、潜伏開始から2週間を過ぎていた。



609 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 04:02:55 ID:I4yj/tj40
翌朝出発した俺とマサさんは、昼すぎに潜伏場所に到着した。
前日、朴が来た時、ジュリーはかなりナーバスな状態にあったが、その時は落ち着いていた。
同じ境遇で、歳は近いが年長のアリサの存在はやはり大きかった。
俺と権さんだけでは、2週間にも及ぶ潜伏生活は不可能だっただろう。
マサさんは俺に話した韓国と日本で調査した内容をアリサの通訳を介してジュリーに話して聞かせた。
バーク夫妻も俺達も、ジュリーには退行催眠で彼女が話したこと、彼女が林幸恵の生まれ変わりだと言ったことは教えていなかった。
カウンセラーの操作でジュリーも催眠で自分が語ったことを忘れている。
だが、マサさんの話を聞くと大粒の涙をボロボロ流しながら、肩を震わせて泣いた。
マサさんは『寺が林家を供養して、新しい墓を立てることになった。一緒に行かないか』と、たどたどしい英語でジュリーに言った。
ジュリーは「YES」と答えた。
マサさんが訳を話して住職に頼み、檀家総代の大森家が動いて檀家衆を説得したのだ。
役員で反対を表明するものはいなかった。

マサさんとキムさん、ジュリーと俺と権さん、そしてアリサは2台の車に分乗して、林家のあった町に向かった。
俺の運転する車に権さんとアリサ、そしてジュリーが乗った。
ジュリーにとっては、祖父の罪を林家と幸恵に詫び、供養して赦しを得る為の旅だっただろう。
しかし、ジュリーは目的地が近付くと涙を流しながら『初めて来た所なのに懐かしい・・・』と言っていた。
俺は何か予感じみたものを感じていた。


610 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 04:03:38 ID:I4yj/tj40
夕方、町に着いた俺達は、寺の紹介で杉村家と言う旧家に泊めてもらうことになった。
当主の杉村氏は50歳前くらいの男性だった。
ふと、仏間に目が行ったときに俺は気付いた。
杉村家は林幸恵の実家だ。
額に入った若い女の写真。
あれは林幸恵に間違いないだろう。
学校から帰宅した杉村氏の高校生の次女を見たとき、確信に変った。
杉村家の人々も驚いていたが、ジュリーと彼女はまるで姉妹のように似ていたのだ。
ジュリーも杉村家に来て、理由の判らない懐かしさを感じていたようだ。

翌日土曜日、杉村氏に伴われて俺達は町内を見て回った。
ジュリーは言葉には出さないが、見るもの全てが懐かしいといった風情だった。
あちこち見て回って、ある地蔵の前に来た時、俺はぞわっと寒気を感じた。
地蔵の背後には鉄柵と鍵で封じられた深そうな穴がある。
穴からは嫌な空気が漂っていた。
横を見るとジュリーが立ちくらみでも起したように倒れ掛かった。
近くにいた杉村氏がジュリーを抱き止め、その日はそれで戻る事になった。
ジュリーは杉村氏に背負われて杉村家へ戻った。



612 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 04:04:17 ID:I4yj/tj40
翌日の昼頃、俺達は寺の墓地にいた。
林家の墓所だった所で住職が経を上げて、墓地での儀式は思ったより簡単に終わった。
本堂に戻ると其処には縄の囲いと護摩壇が用意されていた。
これからが本番のようだ。
護摩が焚かれ、住職が経を唱えながら火に護摩木を加える。
炎は天井まで焦がすのではないかと言うほど高く上った。
住職の読経は続く。
ぞわっと異様な気配を感じてマサさんを挟んだ位置にいるジュリーを見た。
汗をびっしょりかいてぶるぶる震えている。
美しく整っていた顔は悪鬼の形相だ。
遂に彼女の中の「獣」が目を覚ましたのだ。
彼女は奇声を上げて立ち上がった。


613 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 04:05:01 ID:I4yj/tj40
マサさんは彼女と同時に立ち上がると、彼女の背中をパシーンと大きな音を立てて何度も平手打ちした。
そして、落雷のような大きな怒声で、日本語で叫んだ。
「林幸恵、姜時憲は姜相憲がお前の敵を取って殺したぞ。

姜種憲を除いて姜一族は死に絶えた!
お前の恨み、善太郎の恨みは晴らされたぞ!」
マサさんの言葉を聴いて俺はギョッとした。
マサさんの言葉が終った瞬間、ジュリー=姜種憲はその場に崩れ落ち、意識を失った。

後日マサさんに聞いた話によれば、マサさんが韓国から日本に戻った後、姜相憲は姜時憲を刺殺し、同じ銃剣で首を突いて自殺した。
姜時憲は生きていたのだ。
時憲の居場所を相憲に教えたのはマサさんだった。
そして、相憲に居場所を教えるようにマサさんに頼んだのは、他ならぬ時憲本人だった。
この話には更に裏がある。



614 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 04:05:47 ID:I4yj/tj40
杉村家に戻った俺は、風呂上りの火照った体を縁側で覚ましていた。
すると、杉村氏が俺に話しかけてきた。
「大変だったようですね。ジュリーさん、あの方、昨日も調子悪かったみたいですものね」
「・・・・・・・」
「あなたは日本の方なんですよね。他は韓国の方たち。
どういう縁なんでしょうねえ?
日本で半世紀も無縁仏だった家の供養をする為に韓国の方たちがやってくる・・・
・・・特に、ジュリーさんとは、家の者もそうらしいのですが、何か深い縁を感じます。
昨日も胸を締め付けるような感じが・・・娘に良く似ているからですかねえw」
「杉村さんは輪廻転生って信じます?
私は信じている方なんですけど、縁を感じるということは、案外、前世では近い関係にあったのかもしれませんよ。
こうしてお会いしたのも縁あってのことでしょうし・・・」
「それと、付かぬ事をお尋ねしますが、ご家族に変った形の痣やシミのある方は居ませんか?三角形とかの奴」
「私の腰のところに三角形の痣があります。
子供の頃は随分気にしたものです。
今はレーザーで消せるらしいけど、長年そのままだったし、今更どうこうするつもりはないですけどね。
それが何か?」
「いや、何となく。そんな話をちょっと聞いたものでね」
「ああ、住職さん?」
「はい」



616 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 04:06:30 ID:I4yj/tj40
翌日、俺達は杉村家を後にした。
2・3日の後、ジュリーとバーク夫人はカナダに帰国した。
空港で2人を見送った後、アリサを下ろした車の中でマサさんは韓国での事を話し始めた。
「姜時憲はあの日、幸恵を連れて逃げようとしていたんだ。
幸恵の腹の子は時憲の子だったんだよ。
本宅での事件の後、外出帰りに幸恵は時憲に再び襲われて犯された。
だが何故か、その後も人目を避けて時憲を受け入れていたんだが、それは相憲の身代わりだったんだ。
相憲と愛し合っていた幸恵は相憲の子を望んだけど、相憲は善太郎への忠義から幸恵に指一本触れなかったんだ。
それで、身代わりに時憲が選ばれたということだ。
駆け落ちを拒まれて、自分が兄貴の代わりの種馬にされた事を愛する幸恵に言われて逆上して、思わず首を絞めちまったんだよ。
殺す気は無かったんだ・・・時憲は後悔していた。
だが、火を放ったのは自分ではないとも言っていた。
全ての人に見捨てられ、病気で間もなく訪れる死を後悔の中で待ち続けていた彼が、嘘を吐いているとは俺には思えない。
・・・あの老人は相憲に殺される事をずっと望んでいたんだ」



617 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 04:07:16 ID:I4yj/tj40
その後、俺はマサさんと飲みに出掛けた。
マサさんが酔い潰れるのを見たのはその時だけだ。
酔ったマサさんは死んだ目で語った。
「善太郎と相憲を裏切って苦しんでいた時憲は、同郷の男に酒の勢いで秘密を話していたんだ。
そいつは時憲に『幸恵を連れて逃げろ、お前の子を身篭った女だから絶対について来る』、と焚きつけたのさ。
あの洞穴に住み着いていた男だ。
その男が善太郎をけしかけて、禁呪の外法を行わせたんだ。
裏切り者の幸恵を使って、憎い相憲と時憲の一族を滅ぼす為のとびっきりの奴をな。
護摩の前の晩、俺は洞穴で・・・あの地蔵のところで儀式をやった。
姜種憲、長くは無いだろう」

マサさんは善太郎が割腹自殺した洞穴で、善太郎の悪霊を「井戸」に送る儀式を行ったのだ。
善太郎の呪いの道具である姜種憲=幸恵もやがては「井戸」の中に・・・
俺も久々に大酒を呑んだ。



619 転生 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/12(月) 04:08:33 ID:I4yj/tj40
半年もしないうちにジュリーからアリサにバーク夫人の訃報が届いた。
末期癌だった彼女の日本行きは、ある時は憎み、殺意まで抱いた種憲を救うための決死行だったのだ。
だが、彼女の願いは叶わなかった。
2年後、ジュリーこと姜種憲は、ルームメイトと共に養父であったマイケル・バークに撃たれて死んだ。
林幸恵と同じ27歳の冬だった。
報せを受けたその日、俺は正体がなくなるまで飲み続け、アリサと初めて寝た。

終わり






  


Posted by アマミちゃん(野崎りの)  at 01:35Comments(0)祟られ屋マサさんシリーズ(怖い話)

2010年03月04日

邪教~祟られ屋シリーズ②

邪教


476 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 02:44:24 ID:EOkTHTFc0
以前、ここに話を投下した者です。
嫌韓の人、かなりぼかして書いたつもりだけれど、思い当たった
某宗教団体関係者の方は読み飛ばして下さい。


ある日、俺は在日朝鮮人の友人Pに呼ばれて郷里に戻った。
Pはガキの時分からの悪友で、一緒に悪さをして回った仲だ。
地元では一番仲の良い友人だったが、Pとはある事件以来距離を
置いていた。
P絡みで俺は酷い「祟り」に遭い、韓国人の「祟られ屋」の元に半年も
身を置く羽目になったからだ。
そして、その時から俺の人生は狂ったのだ。


477 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 02:45:39 ID:EOkTHTFc0
表向きの用件は前年に胃癌で亡くなったPの親父さんの法事のような儀式だった。
Pの親父さんは俺のオヤジの友人でもあり、俺はオヤジの名代として顔を出した。
儀式の詳細はわからないが、テーブル一杯にたくさんの料理が並べられており、
家督を受け継いだ儀式の主催者であるPが、その料理を一箸づつ先祖に
捧げるといったものらしい。
夜、方々から客が集まり、その料理を肴に酒宴が開かれた。

「祟られ屋」の元に行って以来、俺もPも酒も煙草も飲まなくなっていたので
宴会の時間は長く感じられた。
そろそろ日付も変わるかと言う時間になって宴会はお開きになった。
客が帰ると広いPの家はしんと静まり返った。
両親が亡くなりマンションを引き払ったPはこの家に一人暮らしだ。
片付けは明日で良いと言ってお手伝いさんも帰してしまっていた。
俺とPは無言のままリビングのソファーに向かい合って座っていた。


478 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 02:47:24 ID:EOkTHTFc0
日付が変わり、1時を過ぎた頃か?
表で車が止まる音がした後、インターホンが鳴った。
Pは玄関に出ると来客を招き入れた。
Pがリビングに連れて来たのは白髪頭の男と30歳前くらいの女だった。
男とは面識があった。
俺とPが祟られ屋の元に行った時の世話役だったキムさんだ。
俺は腹を括った。

祟り騒ぎの時に職を失った俺は、キムさんや祟られ屋の「マサさん」に繋ぎを
付けてくれたシンさんの紹介の仕事で食っていた。
Pに呼び出されたのもシンさんの仕事絡みだったのだ。
仕事の内容は、要するに女のボディーガードだった。
しかし、話はそう簡単ではないだろう。
単なるボディーガードなら、一部で非常に有名な「アカ空手」の猛者がキムさんの
ところに何人もいるからだ。
「祟られ屋」マサさんの所で修行した俺やPが必要な話しなのだろう。


479 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 02:49:35 ID:EOkTHTFc0
女は帰化した元在日3世だった。
日本人の夫と5年前に結婚し、将来子供が生まれたときのこと等を考えて
帰化したのだと言う。
それならば、マサさんやキムさんの出番はないはずだ。
女は「イニシエーション」が済んでおり、日本の神々の加護が受けられるので、
トラブルが何であれ、普通の僧や神官、拝み屋で事は足りるはずなのだ。
以前に書いたように、朝鮮民族は日本の神々の加護を受ける事は出来ない。
それは朝鮮人の「血」の宿命であり、日本で生まれた在日でも変わりはない。
しかし、「イニシエーション」を通過した朝鮮人は日本人として日本の神々
の加護を受ける事が出来る。
男の場合は日本と言う国の為に血を流すこと、女なら日本人の妻となり子を
産むこと。
今の日本ならば、日本国に帰化して日本の「公益」の為に働く事。
日本人としての意識を持ち、その意思を示す行動が必要なのだ。
そして、関門を越えた者の子孫は日本人として、生来的に日本の神々の
加護を受けられるのだ。


480 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 02:51:03 ID:EOkTHTFc0
女の異変は父親の死去から始まった。
彼女の父はある宗教団体でかなり高い地位に在ったらしい。
地元の信者をまとめる大物だったようだ。
優秀だった兄は上京して某国立大学を出て、朝鮮籍のまま某大企業に入った。
その企業グループの上層部には教団信者が多数入り込んでいるのだ。
女の嫁ぎ先も彼女の父親が仕切る教区?に属する資産家一家だった。
彼女の父親が生きている間は全て旨く行っていたようだ。
しかし、父親の死後暫くして彼女の母親が倒れ、兄の人格が激変した。
横領により解雇された兄が実家の資産を浪費し、多額の負債を負うまでに没落した。
その兄は詐欺事件と傷害事件を起こし長期収監中なのだという。
さらに、嫁ぎ先も不幸が続き、彼女は第1子を流産。
夫は愛人を作って蒸発したのだと言う。
彼女の父親の死を基点に両家は僅か数年で没落してしまったのだ。



481 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 02:52:31 ID:EOkTHTFc0
仕事の内容は簡単だった。
キムさん達が仕事をしている間、妨害を排除し、彼女と彼女の母親をガードすることだった。
期間は1週間。ギャラは通常の3倍だった。
キムさんは同様の事案を何件も処理した経験があったようだ。
キムさんと彼女がどうコンタクトしたのかは不明だが、キムさんは過去の経験と自分の
見立てを彼女と彼女の母親に話した。
キムさんの指摘に思い当たる節があったのだろう、彼女の実家と嫁ぎ先両家は教団を
脱会した。
彼女の実家の家屋敷は教団の「教会」として教団名義になっていた。
彼女が生まれる前に教団に「布施」として寄進され、教会長として彼女の一家が
住み続けてきたのだと言う。
脱会した今、教団は彼女の一家を追い出しに来る。
彼女の父親もそうやって信者の家屋敷を収奪してきたのだ。
しかし、今回の目的は違う。
キムさんの「仕事」を妨害してある物を奪い取りに来るというのだ。



482 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 02:53:57 ID:EOkTHTFc0
約束の日、俺はキムさんに伴われて彼女の実家に向かった。
近くの路上には離れた位置に短髪の男達が乗った車が2台停まっていた。
キムさんの会社の社員だろう。
門をくぐって屋敷に入った。
3・400坪はあるか?
門をくぐった時から嫌な感じがした。
確かに尋常ではない、何かがあるようだ。
キムさんと共に俺は仏間に入った。
其処には大きな仏壇があった。
初めて見るタイプの仏壇だった。
俺に宗教の知識は乏しいが、その宗派の「本尊」は仏像の類ではなく、所定の地位に在る
僧の書いた書付なのだ。
仏壇の中には書付の入った箱?が入っている。


483 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 02:54:59 ID:EOkTHTFc0
仏間には猛烈に嫌な空気が流れていた。
仏壇を見ていると全身から生気を抜き取られているかのような脱力感に襲われた。
しかし、それ以上に嫌なのは、仏壇の対面にある船箪笥の上に置いてある黒い小箱だった。
何か嫌な気がその小箱から仏壇へと流れている感じがした。
かなりヤバイ物なのは俺でも判った。
箱の中には何があるのか。
俺は箱の蓋を開けたくなった。
箱に手を伸ばそうとした瞬間、不意に横から声を掛けられた。
「おい、その箱に触るなよ。どんなものか判るだろ?」
声の主はマサさんだった。
俺はハッとして手を引っ込めた。
箱に魅入られてしまったらしい。危なかった。


484 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 02:55:56 ID:EOkTHTFc0
「久しぶりだな」
「ご無沙汰してます」
「大分鍛えたようだな」
「おかげさまで」
「うむ、それじゃあ仕事の説明をしようか」

マサさんの話によると、あの仏壇には元はかなりランクの高い「本尊」が入っていたらしい。
問題の教団が出来るよりもかなり前の時代からあった霊格の高い本尊だったようだ。
それが依頼者の父親の葬式の時に偽物と摩り替えられたらしいのだ。
教団は本尊を作る権原のない者によって作られた「偽本尊」を信者に広くばら撒いているのだが、
この偽本尊はある細工をすることによって「親」となる本尊へと運気や功徳を吸い上げるようになって
いるのだと言う。
信徒の本尊には教団の母体の宗派で作られた真正な本尊もあったのだが、教団の幹部は
ある時は騙して、ある時は盗み出して本尊を偽本尊に置き換えていった。
末端信徒の偽本尊は言わば「ストロー」であり、細工された親本尊は吸い上げた運気や功徳
を溜め込む「甕」なのだという。


485 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 03:01:34 ID:EOkTHTFc0
これは朝鮮半島に伝わる呪法の一つで、両班と呼ばれる支配階級が支配地域の平民や白丁と
呼ばれる賎民から運気や精力を奪うものなのだと言う。
用いられる呪物は何でも良い。
神具・仏具、壷や宝石、書物・刀剣・衣服、何でも良いのだが、呪法を掛けられた者が呪物を
大切に扱うことが条件となる。
この呪法の輪に取り込まれた者は、呪法の頂点にある者に運気・精気・功徳を吸い上げられ、
上位にある者を決して越える事が出来なくなるのだ。
朝鮮の支配階級が下克上を防ぐ為に編み出した強力な支配呪法なのだという。
この呪法は李朝滅亡と共に一部流出した。
韓国で、ある古い文書(漢文)を調べると知る事が出来るらしい。
呪法自体は非常に簡単なものらしいのだが、効果が絶大なだけに反作用も非常に強力で、
両班でも実際に呪法を用いた者は少なかったらしい。
簡単に運気や功徳を集められる反面、厳しく持戒しないと欲望の歯止めが利かなくなり
悲惨な破滅を招くのだ。


486 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 03:03:27 ID:EOkTHTFc0
欲望は呪者の精神レベルによって異なるが、レベルが下がるにつれて支配欲・金銭欲・
食欲・色欲と欲望のレベルが下がり、際限なく強くなり歯止めがなくなる。
欲望を抑える自制心の無い者は、より下劣な欲望に飲み込まれて破滅してしまう、非常に
危険な「禁呪」なのである。
韓国人の宗教家の多くはこの呪法を知っていると言う。
大多数の者は忌避しているが、積極的に利用している教祖、既存の教団に潜り込んで
使っている宗教家は少なくないのだと言う。
宗教家以外でも教育家、実業家、政治家などにも応用している人物は多く、多くの者が
壮絶に自爆する末路を辿るのだと言う。
韓国人であるマサさん曰く「朝鮮人を組織に入り込ませること、組織において高い地位に置くことは
大きな破滅を招く」そうだ。
今回問題となった教団もまた朝鮮人の侵食を受け禁呪に汚染されてしまった組織だったのだ。


487 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 03:05:39 ID:EOkTHTFc0
俺はふと疑問を感じ、マサさんに質問した。
「運気や功徳とやらを多くの人間から吸い上げていると言っても無限ではないでしょう?
吸い上げ尽くして、消費し尽くしたらどうなるんですか?」
マサさんは暗い顔で「回復不能の大破滅しかないだろうな。だからこの呪法は禁呪として、
自制心のある知識階級の両班の秘法とされて来たんだ。だけど、欲望の赴くまま際限なく
拡大している馬鹿が何人居る?思い当たる人間が何人もいるだろう?
言いたくはないが、朝鮮人は人類の癌細胞だよ。もうどうしようもないね・・・」
先祖代々、呪詛の掃き溜め扱いされてきたマサさんが祖国である韓国や、同胞である朝鮮人に
良い感情を持っていないことは半年間生活を共にして知っているつもりだったが、強い言葉の
調子にマサさんが同胞に抱いている絶望感の深さが覗われた。
俺はそれ以上言葉を発する事は出来なかった。



488 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 03:06:27 ID:EOkTHTFc0
「本尊の方は私が処理するよ。仕事自体はそう難しいものではないからね」とキムさんが言った。
「まあ、日本人の拝み屋さんの方が上手だと思うけど、同胞の不始末だからね。
日本人や日本に親しみを持っている韓国人は少なくないし、在日の殆どの人は日本人と
仲良く暮らしたいと思っているんだよ。君とP君は子供の頃から大の仲良しだったろ?
日本人に迷惑をかけている同胞を見て心を痛めている人は多いんだよ。それは判ってね」
日本人でありながら在日社会のトラブルに首を突っ込んで飯を食っている俺に返す言葉はなかった。
「儀式が始まったら正気でいられるのは我々3人だけだと思うから。屋敷に入ってきた奴は
手加減せずに叩きのめしてね」

「問題は俺の方だな」とマサさんが口を開いた。
おもむろに黒い箱の蓋を開いた。
中には泥団子のようなものが入っていた。


489 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 03:08:04 ID:EOkTHTFc0
「思い当たる事はないか?」
・・・泥団子?・・・あっ!
思い当たる事があった。
マサさんの所で聞いた、財運など世俗的な欲望を叶えるかなりヤバイ外法の話を思い出したのだ。
仏像や経本(聖書など)を焼いた灰を糞尿と畜生の血に混ぜて、土と練り合わせたものを1万人の
人間に踏み付けさせて作った粘土で仏像を作って礼拝する呪法があるのだ。
一旦礼拝を始めるとあらゆる幸運が訪れるけれども、礼拝を1日でも欠かすと一家を滅亡させる
という禁呪だ。
話だけなら他でも何度か聞いたり読んだりしたことのあるものだ。
俺がこの屋敷の仏間に入った時に感じた箱から仏壇へと流れる嫌な気の流れは、泥の呪法が
集めた「運気」を仏壇の偽本尊が吸い取る流れだったのだ。
「かなりエゲツないやり口ですね」と俺が言うと、
「俺らしい仕事だろ?使われた灰は・・・盗み出してすり替えた古い信徒の家の本尊だな」と
マサさんは言った。
「儀式は?」
「本尊と禁仏の力が共に最低なるのは明後日の晩だ。次の一致日は半年以上先だ。
チャンスは一度きりだ。キッチリ押さえてくれ」



490 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 03:10:28 ID:EOkTHTFc0
そして儀式の晩。
俺は女と女の母親のいる寝室の前で安全靴を履き、手にはサップグローブと呼ばれる200g程の
鉄粉の入った皮手袋を嵌めて警戒に当っていた。
夜明けまで侵入者を排除して儀式を行えば仕事は無事終わる。
午前零時に始まった儀式は3時を過ぎて半分が終わった。
安心しかけていた3時30分ごろ、屋敷の外から人の争う怒声が聞こえた。
屋敷に侵入しようとした男が邸外で待機していた空手屋たちに捕まったらしい。
近所の住民が通報したのだろうか?
回転灯の赤い光が外から僅かに入って来ていた。

仏間の儀式は佳境に入ったようだ。
外の騒ぎも収まったようなので女と母親が寝ている寝室をのぞいてみた。
襖を空けた瞬間、俺は異様な気配を感じた。
寝たきりのはずの母親が介護ベッド上で上半身を起こしカッと見開いた目でこちらを睨み付けている。
ベッドの横の布団の上では女が体をクネクネとくねらせていた。
女の寝巻きがはだけて形の良い胸が棗球の明かりに照らしだされた。
下穿きの股間には大きな染みが出来ていた。
かなり長い時間、自慰に耽っていたようだ。


491 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 03:13:07 ID:EOkTHTFc0
荒事にはかなり慣れているが、憑物のついた人間を見るのはその時が初めてだった。
かなり異様な雰囲気だった。
上着を脱いで女が抱きついてきた。
唇の端からよだれを垂らした口でキスしようとしてくる。
女はかなり可愛い顔立ちをしていたので普段なら喜んで相手をするところだが、今はそんな事をしている
場合ではないし不気味な歪み方をした女の表情に欲情できるものではなかった。
しかし、俺の体は理性とは裏腹に激しく勃起していた。
しかも、醒めた理性とは別の所で激しい性欲が起こっていた。
憑物から身を守る方法を知っていたから、俺は激しい性欲が自分の物ではないことに気付く事が出来た。
しかし、普通の男なら、例えば外にいる空手屋だったらたちまち性欲に飲み込まれて、
布団の上で女とSEXを始めていたことだろう。
少なくとも、以前の俺なら大喜びで女の体を貪ったはずだ。
女は何度引き離しても抱きついてきた。
俺は柱時計を見た。
時間は4時40分を過ぎたところだったか?
俺は女を押し倒し袈裟固めで押さえつけた。
・・・6時少し前、儀式は終わった。


492 邪教 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/03(土) 03:13:50 ID:EOkTHTFc0
いつの間にか、女は動かなくなり微かに寝息を立てていた。
母親もベッドに横になっていた。
外から朝日が入ってきていた。
襖の外には汗をびっしょりとかいたマサさんとキムさんが立っていた。
マサさんが「おっ?女とヤラなかったんだな。偉いぞw」
「女癖の悪い男だと聞いていたけれど、なかなかどうして、がんばったねえw」とキムさん。
「ふん。合格だな」
どうやら、今回の仕事は俺のテストを兼ねていたらしい。
この時を境に、俺は借金の取立てや、飲み屋のホステスや風俗嬢のガードではなく、
キムさんやマサさんのアシスタント的な仕事をするようになった。
結局、俺の運命はマサさんのところで修行をしたことで決定的に変ってしまっていたのだ。

終わり



  


Posted by アマミちゃん(野崎りの)  at 01:34Comments(1)祟られ屋マサさんシリーズ(怖い話)

2010年03月04日

傷~祟られ屋シリーズ①

211 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:01:52 ID:WmdfX0hw0


嫌韓の人とかは読み飛ばしてください。

以前、俺は韓国人の「祟られ屋」の所に半年ほどいた事がある。
その「祟られ屋」を仮に「マサさん」と呼ぶことにする。
マサさんは10代の頃に日本に渡ってきた、在日30年以上になる韓国人。
韓国人には珍しい「二文字姓」の本名を持つ一族の出身で、
在日朝鮮人実業家に呼び寄せられた先代の「拝み屋」だった父親に付いて来日したらしい。
「マサさん」というのは、その風貌から。
現役時代のマサ斎藤というプロレスラーに似ているから。

俺はある事件で「祟り」に遭い、命を落としそうになったことがある。
その事件が生涯初めての霊体験であり、マサさんと知り合うきっかけになった。
今日はその事件について書きたいと思う。


212 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:03:20 ID:WmdfX0hw0
俺の古くからの友人にPと言う在日朝鮮人の男がいる。
Pの実家は、焼肉屋にラブホテル、風俗店や金貸しを営む資産家だった。
P家の経営するラブホはカラオケやゲーム、ルームサービスも充実して流行っていた。
「事件」があったのは、そんなP家の経営するラブホの新店舗。
新店舗もオープン当初は立地条件も良く流行っていたらしい。
しかし、ある時を境に客足がガクッと落ち込んでしまった。
まあ、お約束ってやつかな。
どうもそのホテル、「出る」らしいんだ。
そのホテルに出るだけじゃなく、Pの実家の婆さんが亡くなり、お袋さんは重度の鬱病、
親父さんも胃癌になるといった具合に身内の不幸が重なった。
地元の商店街ではPの家が祟られているという噂が流れていたようだ。
そんな地元の噂を聞きつけたのか、拝み屋だか霊媒師だかのオバサンがPのところに売り込みに来たらしい。

213 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:06:16 ID:WmdfX0hw0
そのオバサンはPらのコミュニティーでは金には汚いけれど「本物」だということで結構有名な人だったようだ。
自信たっぷりに「お前の所に憑いている悪霊を祓ってやる。失敗したら金は要らない。
成功したら500万払え」と言って来たらしい。
P本人は信心深いタマではなく、ハナッから相手にする気はなかった。
タカリの一種くらいにしか見ていなかった。
しかし、Pのオヤジさんは病気ですっかり参っていたせいもあって、このお祓いの話に乗り気だったらしい。
それでも500万という金はデカイ。
社長はオヤジさんだが、馬鹿な無駄金を使うのを黙って見ている訳には行かない。
そこで、Pは俺に「報酬10万に女も付ける。出るという噂の部屋に一晩泊まってみてくれ」と頼んできた。
ガキの頃から知っている俺が泊まって、何もなかったと言えばアボジも納得するだろうと。
万が一、本当に出たらオバサンにお払いを頼む。
出なければシカトして500万は他のラブホの改装の足しにでもする。
俺はオカルトネタは大好きだけれど、霊感って奴は皆無。
心霊スポット巡りも嫌いじゃないので快諾した。



214 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:07:29 ID:WmdfX0hw0
Pに頼まれた翌週末、午後8時過ぎくらいにPの知り合いが経営する韓デリの女の子と落ち合って、
問題のホテルの508号室(角部屋)に入った。
部屋に入った時点では霊感ゼロの俺が感じるものは特になかった。
ただ、デリ嬢のユキちゃん(ほしのあき似、Fカップ美乳!)はしきりに「寒い」と言っていた。
夏とはいえキャミ姿で肩を出した服装。
「冷房がきついのかな」位にしか思わなかった。
エアコンを止めてもユキちゃんが「寒い」と言っていたので、俺たちはバスタブに湯を溜めて風呂に入った。
バスルームでいちゃつきながら口で1発抜いてもらって、ベッドで3発やった。
部屋にゴムは2個しかなかったので3発目は生だった。
ユキちゃんはスケベですごいテクニシャン。
3時間以上頑張って流石に疲れて、1時くらいには眠ってしまった。

215 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:09:17 ID:WmdfX0hw0
どれくらい眠っただろうか。
俺は、耳元で爪を切るような「パチン、パチン」と言う音を聞いて目が覚めた。
隣で眠っているはずのユキちゃんがいない。
ソファーの上に畳んであった服もバッグもない。
俺が寝ている間に帰ったのか?
オールナイトで朝食も一緒に食べに行くはずったのに…
俺はタバコに火を付けようとしたが、オイル切れという訳でも、石がなくなった訳でもないのにジッポに火がつかない。
部屋にあった紙マッチも湿ってしまっているのか火が付かない。
俺はタバコを戻して回りを見渡した。
部屋の雰囲気が違う。
物の配置は変わらないのだけれど、全てが色褪せて古ぼけた感じ。
それに微かに匂う土っぽい臭い…
俺は全身に嫌な汗をかいていた。
体が異様に重い。
目覚ましに熱いシャワーでも浴びようと思って、俺はバスルームに入った。
シャワーの蛇口をひねる。
しかし、お湯は出てこない。
「ゴボゴボ」と言う音がして、ドブが腐ったような臭いがしてきた。
俺は内線でフロントに「シャワーが壊れているみたいなのだけれど」と電話した。
フロントのオバサンは「今行きます」と答えた。


216 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:10:25 ID:OepwUrv70
俺は腰にバスタオルを巻いた状態で洗面台で顔を洗っていた。
すると、入り口のドアをノックする音がする。
ハンドタオルで顔を拭きながらドアの方を見ると、そこには全裸のユキちゃんが立っていた。
ユキちゃんの様子がおかしい。
目が黒目だけ?で真っ黒。
そして、左手には白鞘の日本刀を持っている。
「ユキちゃん?」と声をかけても無言。そのまま迫ってくる。
そして、刀を抜いた。やばい!
俺は部屋に退がりテーブルの上に合ったアルミの灰皿をユキの顔面に投げつけた。しかし、当らない。
いや、すりぬけた?
今度は胸元にジッポを投げつける。
しかし、これもすり抜けて?入り口のドアに当たり「ガンッ」と音を立てる。
ユキは刀を上段から大きく振り下ろした。
かわそうにも体が重くて思うように動かない。
俺は左手で顔面を守った。
ガツッ、どんっ!
前腕の半ばで切断された俺の左腕が床に転がる。
俺は小便を漏らしながら声にならない悲鳴を上げた。



217 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:11:22 ID:WmdfX0hw0
床にめり込んだ切っ先を抜いて構えたユキは、更に左の肩口に刀を振り下ろす。
左肩から鳩尾辺りまで切り裂かれる。
俺はユキに体当たりしてドアの方に走る。
血に滑って足を取られながら逃げたけれど背中を切られた。
ドアを開けて外に逃げようとしたが鍵が閉まっている!俺は後を振り返った。
その瞬間、ユキが刀を振り下ろした。
首に鈍い衝撃を感じ、次の瞬間ゴンッという音と共におでこに強い衝撃と痛みを感じた。
シューという音と生暖かい液体の感触を右の頬に感じながら、俺は意識を失った。


218 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:13:14 ID:WmdfX0hw0
俺は頭の先で「ガリガリ」と言う音を聞いて目が覚めた。
体中が痛い。
頭も酷い二日酔いのようにガンガンする。
音のする方をみるとユキがドアをガリガリ引っ掻いていた。
何時間そうしていたのかは知らないけれど、両手の爪は剥がれて血まみれ。
ドアには血の跡がいっぱい付いていた。
俺はユキの肩を揺すって「ユキちゃん」と声をかけたけれども、
空ろな目で朝鮮語らしい言葉でブツブツ言っているだけで無反応。
俺はユキを抱きかかえてベッドに運んだ。
ベッドにユキを横たえると俺は部屋を見渡した。
勿論、俺の首も左腕も付いてる。
部屋の内装も真新しい。
しかし、俺は恐怖に震えていた。
バスルームではシャワーが出しっぱなしになっていた。
入り口のドアの手前には俺が投げた灰皿とジッポライター。
ベッドの手前のフローリングの床には小便の水溜り…そして真新しい傷…
血痕とユキの持っていた刀は無かったが。



219 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:15:05 ID:WmdfX0hw0
俺はPに携帯で連絡を入れた。
Pは1時間ほどで人を連れて来るという。
とりあえず俺はユキに服を着せ、シャワーを浴びた。
熱い湯を体がふやけそうなくらいに浴び続けた。
シャワーを出て洗面台で自分の姿を見た俺はまた凍りついた。
首と左肩から鳩尾にかけて幅5ミリ位の線状のどす黒い痣になっていた。
左腕も。
背中を鏡に映すと背中にもあった。
いずれも昨晩ユキに刀で切られた場所だ。

約束の時間に30分ほど遅れてPはデリヘルの店長とホテルの支配人?、若い男2人を連れてやってきた。
支配人はドアの爪痕を見て青い顔をして無言で突っ立っていた。
デリヘルの店長は火病ってギャーギャー喚いていた。
ユキは頭からタオルケットを掛けられ、2人の若い男に支えられながら駐車場へ向かった。
俺は、Pの車を運転しながら(Pは物凄く酒臭かった。泥酔状態で運転してくるコイツの方が幽霊よりも怖い!)、
昨晩起こった出来事をPに話し、お祓いすることを強く勧めた。
流石のPも俺の首と腕の痣を目にして納得したようだった。


220 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:16:40 ID:WmdfX0hw0
1週間ほどしてPから連絡があった。次の月曜の晩にお払いをする。
現場を見るついでに俺の話しも直接聞きたいらしいから、霊媒師のオバサンに会って欲しいということだった。
俺の方も異存は無かった。
俺は約束の時間に待ち合わせの場所に行った。
霊媒師のオバサンは50歳ということだったが、割と綺麗な人だった。
Pに「ユキはどうした?」と聞くと、Pは「ぶっ壊れて、もうダメみたい。韓国から家族が迎えに来るらしい」
オバサンは俺の向かいの席に座り、俺の両手を握って俺の目を瞬きもしないで見つめた。
10分くらいそうしたか、無言で手を離すと、Pの家族も見たいと言う。
俺たちはPの車に乗ってPの実家に向かった。
オバサンはPの家の中を見て回り、俺のときと同じようにPのオヤジさんとお袋さんの手を握って顔を凝視した。
霊媒師のオバサンは、俺のときよりも更に険しい顔をしてPに「問題の部屋に連れて行って」と言った。
俺たちはPの車に乗って例のホテルに向かった。



221 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:18:38 ID:WmdfX0hw0
車中では3人とも無言だった。
後部座席のオバサンは水晶の数珠を手に持って声を出さずに唇だけでブツブツ何かを唱えていた。
15分ほどで俺たちはホテルに着いた。
俺たちは車から降りた。
後部座席のドアが開いてオバサンが車から降りた瞬間、オバサンが手にしていた数珠がパーンと弾け飛んだ。
オバサンは顔に汗をびっしょりかいて怯えた様子で「ごめんなさい、これは私の手には負えない。
気の毒だけれど、ごめんなさい」と言って大通りの方に足早に向かって行った。
するとPは物凄い剣幕で「ふざけるな!金はいくらでも出すから何とかしてくれよ!」と叫びながらオバサンを追った。
オバサンはPを無視して早足で歩く。
すがり付くようにPは朝鮮語で泣きそうな声で喚きたてた。
しかし、オバサンはタクシーを捕まえて、Pを振り切って去って行ってしまった。


222 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:21:12 ID:WmdfX0hw0
それから1ヶ月ほど経ったか?
俺は困り果てていた。
霊現象の類は無かったものの、ホテルで付いた痣が膿んで酷い事になっていた。
始めは化膿したニキビみたいなポツポツが痣の線に沿って出来る感じで、ちょっと痒いくらいだったが、
やがてニキビは潰れ爛れて、傷は深くなって行った。
ドロドロに膿んで痛みも酷かった。
皮膚科に通って抗生物質などの内服薬とステロイド系の軟膏を塗ったが全く効果は無かった。
そんな時にPから連絡があった。
今すぐ会いたいと。


223 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:25:06 ID:WmdfX0hw0
たった1ヶ月会わなかっただけなのに、Pの姿は変わり果てていた。
Pは安田大サーカスのクロちゃんに似たピザだったが、別人のようにゲッソリとやつれていた。
肌の色はドス黒い土気色で、白髪が一気に増え、円形脱毛症だらけになっていた。
Pが消え入りそうな声で「よう」と声をかけてきた。
俺が「どうしちゃったんだよ?」と聞くとPは答えた。
Pは俺をホテルに迎えにいった晩から今日まで「あの部屋で」「毎晩」「斬り殺されている」らしい。
殺されて次に目が覚めたときには自分の部屋にいるのだけれど、
今いる自分の部屋より「あの」ホテルの部屋での出来事の方がリアルなのだと言う。
Pの話を聞いて俺もあの晩のことを思い出して嫌な汗をかいた。
変わり果てたPの様子、霊媒師に逃げられた晩の必死な様子にも納得がいった。
そして、1ヶ月もの間、毎晩あの恐怖に晒されながら正気?を保っているPの精神力に驚きを隠せなかった。
俺はPに「御祓いはしなかったのか?」と聞いた。
Pは答えた「祈祷師、拝み屋の類も色々回ったけど、これを見ただけで追い払われたよ。
あのババアに逃げられたってだけで会ってももらえないのが殆どだったけれどな」
そう言うと、Pは着ていたTシャツを脱いだ。
Pの体には俺と同じ、夥しい数の「傷」があった。
膿んで深くなったもの、まだ痣の段階のもの…


224 傷 ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 00:31:44 ID:WmdfX0hw0
Pの話だと、俺たちの傷は医者に治せる類のものではないらしい。
放って置けば傷はどんどん深くなり、やがては死に至ると…
そして、「祟り」の性質から、普通の拝み屋や祈祷師には手は出せないらしい。
だが、Pのオヤジさん、商工会の会長の伝で朝鮮人の起した祟りや呪といったトラブルを解決してくれる
「始末屋」がいるらしい。
Pはその始末屋のところに一緒に来いと言う。
そこに行けば3ヶ月から半年は戻って来れないという。
俺は迷った。
しかし、あのホテルでの出来事や傷の事、Pの様子から俺は腹を括った。
俺は勤め先に辞表を出して、Pと共に迎えの車に乗った。

その紹介された「始末屋」がマサさんだった。

半年間、俺たちはマサさんの下で過ごし、「機」を待った。
色々と恐ろしい思いもしたが、半年後、事件は解決した。
事件の解決についてはマサさんの下での生活の話しを読んでもらわなければ判りにくいと思う。
306 傷(2) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 19:01:31 ID:WmdfX0hw0
迎えの車が来る前に、俺たちは付き添いのキムさんの用意してくれた黒いスウェットのパンツとトレーナー、
サンダル履きの身一つの状態にされた。
そしてキムさんの車に乗って出発。
高速に乗って二つ先のインターで降りた。
車はインター近くの大型電気店の駐車場に入った。
キムさんは俺たちに便所に行って来いと言った。
車に戻ると後部座席に座らされ、薬を飲むように言われた。
睡眠薬だと言う。
俺たちはキムさんの言葉に従った。薬を飲んで暫くすると睡魔が襲ってきた。

目が覚めたとき、俺たちは工事現場などのプレハブ事務所のような建物の床に転がされていた。
少し離れた所に体格の良い40代位の男が胡坐をかいて座っていた。
この男がマサさんだった。

307 傷(2) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 19:04:40 ID:WmdfX0hw0
俺が体を起すとマサさんは無言で冷蔵庫を開けペットボトルの水をわたした。
喉が焼け付くように渇いていた俺は2L入りのペットボトルの半分以上を一気に飲み干した。
やがてPも目を覚ました。
Pが水を飲み終わるとマサさんが始めて口を開いた。
マサ:「カンさんから話しは聞いている。私の方で調べて状況も判っている。
私の指示には絶対に従ってもらうが、判らない事があれば聞いてくれ。
長い付き合いになる、遠慮はしなくていい。仕事に差し支えない範囲で要望も聞こう」
俺:「随分と回りくどい連れてこられ方をしたが、何か意味はあるのか?」
マサ:「君たちに取り憑いているのは一種の生霊だ。
そっちの兄さんの実家とホテルの部屋を浄化した水を君達に飲んでもらった。
キムさんの家に泊まって飯を食っただろう?ガッチリと取り憑いてはいるが、念には念をってやつだ」
P:「ふざけるな、何でそんな真似を!」
マサ:「生霊って奴は案外視野が狭い。取り憑いたら人にせよ場所にせよ、それしか目に入らない。
君等がキムさんの所にいる間にホテルと実家に結界を結んだ。
他に行き場のない生霊は君たちに取り付いているしかないが、君達がここに来るまでの道程も、
帰る道も判らないように、生霊にも間の道はわからない。
とりあえず呪いも祟りも君達止まりで、君等が取り殺されない限りは他に害は及ばないよ。
家族が助かったんだ、問題ないだろう?」
…あまりの言葉に俺たちは絶句してしまった。…問題大有りだろ!


308 傷(2) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 19:07:10 ID:WmdfX0hw0
言葉を失ってしまった俺たちにマサさんは服を脱げと言った。
もう、まな板の上の鯉の心境。
俺たちはマサさんの言葉に従った。
マサさんはバリカンと剃刀を持ってきて、俺たちの髪の毛と眉毛を剃り落とした。
そして、筆と赤黒い酢のような臭いのする液体を持ってきて、
腹ばいに寝かせた俺たちの背中に何かを書き出した。
乾いた文字を見ると十字型に並べられた5文字の梵字だった。
P:「何ですか、これは?」
マサ:「耳無し坊一の話は知っているかい?」
俺:「平家の亡霊から姿を隠す為に全身に経文を書いたのでしたよね?
これは俺達に取り憑いた生霊とやらから身を隠す呪文か何かですか?」
マサ:「ちょっと違うね。まあすぐに判る。この液体は皮膚に付くとちょっとやそっとでは落ちないけれど、
これから行く所では護符が消えると命の保障は出来ないよ。薄くなったらすぐに書いてあげるから気を付けてね」
マサさんは俺たちの髪の毛とシェービングフォームを拭き取ったタオル、
着てきた服とサンダルを火の入った焼却炉に放り込むと、腰にタオルを巻いただけの俺たちを車に乗せた。

310 傷(2) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 19:08:09 ID:WmdfX0hw0
車に乗ると俺達はアイマスクをさせられた。
暫く走ると舗装道路ではなくなったのだろう、車は酷く揺れた。
砂利道に入って5分もしないうちに車は止まった。
マサさんは俺達に少し待てと言った。
車外からはハンマーで鉄を打つような音が聞こえてきた。
実際、長さ50cm、直径5cm程の鉄の杭を地面に打ったのだという。
鉄杭を打つ事で地脈を断ち切り、外界とこの敷地を切り離しているのだと言う。
この敷地にはこの様な鉄杭が他に7本打たれているとマサさんは語った。
この敷地自体が一種の結界なのだと言う。
俺達はこの敷地から一歩たりとも足を踏み出す事を禁じられた。


311 傷(2) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 19:09:27 ID:WmdfX0hw0
敷地の中には普通の民家と大きな倉庫のような建物があった。
民家と倉庫の間に立って、マサさんが敷地の奥の方を指差した。
岩の低い崖の手前に小さな井戸のようなものがある。
実際それは深い井戸らしい。直径は60cm程でさほど大きくはない。
その上には一抱えほどもある黒くて丸い、滑らかな表面をした、直径80cmほどの天然石で蓋がしてあった。
井戸の周りには井戸を中心に直径180cmの円上に八方に先程と同じ鉄杭が打たれていると言う。
マサさんは井戸には絶対に近づくな、出来る限り井戸を見るな、井戸のことを考えるなと言った。
井戸に引かれるのだと言う。そして、もし万が一、井戸に引かれる事があっても鉄杭の結界の中に入るなという。
Pがあれは何だと尋ねた。
マサさんはこう答えた。「地獄の入り口だ」と。
季節はまだかなり暑い時期だった。
山に囲まれてはいるが、それほど山奥と言う感じではない。
まだ日も高く、日差しも強い。
しかし、この敷地に入って車から降りた時から何かゾクッとする寒気のようなものを感じた。
流石に、俺にもPにも判っていた。
この土地の「寒気」の中心があの井戸であることが…


312 傷(2) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 19:11:51 ID:WmdfX0hw0
まあ、この時には聞かなくても判っていたのだが、俺はマサさんに聞いた。
「背中の護符はあの井戸の中身から俺達の身を守るものなのですね?」
マサ:「そうだ。けれども、あの井戸があるから、君らに憑いた悪霊も君達に手出しする事は出来ないのだ。
君達を取り殺して、結界の中で一瞬でもあの井戸の前に晒されれば、たちまち取り込まれて、
井戸の中の悪霊と一体化してしまうからね。井戸の悪霊は君達の中の悪霊を取り込もうとして引き付ける。
一緒に引き込まれないように気を付けてくれ」

314 傷(2) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 19:14:08 ID:WmdfX0hw0
民家はマサさんの居宅だった。
家の中で俺たちは藍染めの作務衣のような服を渡されて着た。
マサさんは妙に薬臭いお茶を飲ませてから俺達に言った。
「その傷を何とかしなくちゃな」
傷の事を言われて始めて気がついたのだが、不思議なことに、この禍々しい土地に入ってから、
あれほど痛んだ傷の痛みはそれほどでもなくなっていた。
俺はそのことをマサさんに話した。
Pも「実は俺もだ」といった。
マサさんは言った。
本来、霊には生霊も死霊も生きている人間の肉体を直接傷付ける力はない。
殆どが怖い「雰囲気」を作るだけ。
相当強い「念」を持った霊でも「幻影」を見せるのが精一杯なのだと言う。
「祟り」で病気になったり、事故に遭ったりするのは祟られた人間の精神に起因する。
「雰囲気」に飲み込まれた人が抱いた「恐怖心」が核になり、雪だるまのように負の想念が大きくなって、
そのストレスにより精神や肉体、或いはその行動に変調を来した状態が「霊障」と呼ばれるものの大部分なのだと言う。
こういった「霊障」の御祓いは、所謂「霊能力者」や正しい儀式でなくとも、
「御祓い」を受ける被験者に信じ込ませる事が出来れば誰にでも出来る催眠術の類らしい。
しかし、俺達の場合は違うのだと言う。

316 傷(2) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 19:18:34 ID:WmdfX0hw0
マサさんは俺がユキに斬られた晩の話を聞き、ホテルの部屋を確認したという。
そして、フローリングの床を確認した。
ユキが刀の切っ先をめり込ませた作った傷があり、
俺が投げたライターか灰皿が当って出来たであろう部屋の入り口のドアの小さな凹みと塗装のはがれも発見したと言う。
出しっぱなしになっていたシャワーや小便の水溜りがあった話から、俺達の傷は所謂「霊体」に深手を負わされ、
それが肉体に反映したものだと判断したのだと言う。あの晩の出来事も、Pの体験も夢ではなかったのだ!
そして、そのことから、俺たちの霊体を斬った生霊の背後には「神」とでも言うべき霊格の高い存在が付いているのが判るのだと言う。
でなければ、肉体に外傷として現れるような深手を生きた人間の霊体に負わせることは不可能なのだ。
こういった霊格の高い存在が背後にある場合、祟られたのが朝鮮人の場合、
ごく例外的な場合を除いて通常の除霊も浄霊も不可能なのだと言う。
朝鮮人は「神」の助力を、特に日本国内では得られないのだという。
「個」や「家」ではなく、「血族」を重視する朝鮮人は祖先の「善業」も「悪業」も強くその子孫が受け継ぐのだそうだ。
朝鮮は遥かな過去から大陸の歴代王朝や日本の支配を受けてきた。
そして、同族を蹴落としながら支配者に取り入りつつ、その支配者に呪詛を仕掛け続けてきたのだ。
「恨」という朝鮮人の心性を表す言葉は、朝鮮人の宿業でもあるのだ。
自らを「神」として奉る民族や国家、王朝を呪う者に助力する「神」はいない。
そのような者への助力を頼めば逆にその神の逆鱗に触れかねない。
Pが、御祓いを頼みに行った祈祷師たちに悉く拒絶されたのはその為だったらしい。
「まあ、そのお陰で私の商売も成り立つのだけどね」とマサさんは笑った。



318 傷(2) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 19:20:30 ID:WmdfX0hw0
朝鮮人を守ってくれる神様はいないのですか?とPが聞いた。
マサさん曰く、「神」の助力を得るには長い時間をかけた「信仰」ってヤツが必要なのだそうだ。
いや、長い時間を重ねた信仰が「神」を作ると言ってもいい。
朝鮮は支配王朝が変わるたびに文化を変え、信仰まで変えてきた。
しかも、同族同士で呪詛を掛け合っても来た。
民族の「神」がいない訳じゃないけれど、その霊格は高くなりようがない。
儒教は厳密な意味で宗教ではない。
キリストは「神」だけれど、孔子は「神」ではない。
日本や中国と同じ神仏の偶像はいっぱいあるけれど「神」には「なっていない」。
だから朝鮮では、生贄を利用する蟲毒のような「呪詛」、
地脈や方位を巧みに操って大地の「気」を利用する「風水」が発達したのだという。
そして、民族全体が共通して信仰する霊格或いは神格の高い「神」を持たないが故に、
生きた人間が神を僭称し、時に多くの民衆の信仰を集めてしまうのが朝鮮の病弊なのだ。
朝鮮人はある意味、異常な民族なのだという。

320 傷(2) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 19:25:01 ID:WmdfX0hw0
話しは戻って、何故俺達の「致命傷」とも言える「霊体」の傷は、この禍々しい土地で癒えつつあるのか?
マサさんは「私の推測も入るが」と断りつつ語った。
俺たちに憑いている悪霊を「生霊」と判断したのは、マサさんに繋ぎを付けてくれた商工会の調べで、あのラブホテルのある土地の元の住人を探し当てたからだ。
あの土地に住んでいた住人はバブル期に作った借金が元で、抵当に入っていた不動産を失った。その家は江戸時代から続く旧家だったらしい。
建物を取り壊した工務店の話では祠や神社の類はなかったが、家の中に立派な神棚があったらしい。
建物は抵当割れで解体費用も出ず塩漬けされ、P家が買い取りラブホテルを立てるまで放置されていたそうだ。
そして、住人は意外な所にいた。
その家のすぐ近所の賃貸マンションに、元の持ち主の一人娘が住んでいた。
娘は両親が死亡する前に連帯保証人となっており、多額の借金を返す為に、
なんとP家の経営する風俗店で働いていたのだ!
女のマンションの部屋からは問題のラブホは良く見えるらしい…
マサさんは「あくまでも推測だが」おそらく、その女の家では神社か祠を代々祀っていたのだろう。
刀を祀った祠だったのではないか?
それが風水害や地震・戦災などで喪われ、女の両親、
あるいはそれ以前の代の家の者の手によって神棚に移し替えられ祀られていたのだろう。
その刀ないし「神」は長い年月をかけて祀られ続ける事でその家の「守護神」となっていたのであろう。
生霊として俺達に「封じられている」娘は、俺たちが死ぬと井戸の悪霊に吸収されて確実に命を失うだろう。
そうすれば他に「祀る者」を持たない、祠や神棚といった形も失った「守護神」は時間の長短はあってもやがては消え去ることになる。
また、本件においては「守護神」と「生霊」が一体化しているようにも見える。
そうすると娘の霊と共に「井戸の悪霊」に飲み込まれる可能性もある。
それを避ける為に俺達の傷を癒した。
俺達の傷は「守護神」の力によるもの。治すのは雑作もないと…


321 傷(2) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/10(土) 19:29:30 ID:WmdfX0hw0
マサさんの話の宗教観ないし心霊観は正直、俺にはピンと来なかった。
ここに書いた話も正確に再現できているのか心許ない。
ただ、傷が楽になってきているのは確かなので、そんなものなのか、
そんな考え方もあるのだなと思った。

マサさんの話では、「内」の傷が治っても「外」の傷はそのままでは治らない。
そのまま放置すると「井戸」の影響で「外」の傷から「内」を侵されてしまう。
傷は早急に治さなければならない。
マサさんは家の表に出て一斗缶の中に火を起し、鉄の中華鍋のようなものを炙り始めた。
やがて鍋が焼け、鉄の焼ける独特なにおいがしてくると、鍋の中に白い粉末を入れた。
石臼で擦った「塩」らしい。それを一斗缶の火が消えるまで何かを唱えながら混ぜ続けた。
火が消えると黄色い粉末を一つまみ塩に振りかけた。「硫黄」だという。
鍋を缶から下ろすとペットボトルに入った水を鍋の中に注いだ。
塩の量が多くて全然溶け切っていなかった。
マサさんは俺達に服を脱げと言った。
猛烈に嫌な予感がした。そして、予感は的中した。
マサさんは、手で掬った「塩」を俺達の傷に塗りつけ、物凄い力で擦りつけた。
湿って乾き切っていない瘡蓋とも膿みの塊ともつかないものが剥がし取られた。
酷くしみる。焼けるようだ。
傷の数も面積も大きいPは目を真っ赤にして声も出せないようだ。
マサさんは鉄鍋の中身がなくなるまで交互に擦りこみ続けた。
その晩はひりひりと痛んで眠る事も出来なかったが、あれほど治らなかった傷は3日ほどで瘡蓋が張り、
更に1週間ほどで綺麗に治ってしまった。

588 傷(3) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/12(月) 03:53:53 ID:WgOItSsC0

マサさんの話によると、死霊や自縛霊といったものは、鉄杭で七方の地脈を絶って、
一方向を開けて、霊格や神格の高い神社仏閣との間の地脈を開いて繋げる事で、
1年ほどで浄化されてしまうらしい。
浄化された土地に、お寺から貰ってきた護摩や線香の灰や神社から貰ってきた水を撒いて
鉄杭を抜けば「普通の」土地になるらしい。
呪詛には呪詛返しの方法があり、生霊は、祟っている方か祟られている方のいずれかが死ねば
それまで(…なんだかな~)。
色々方法があるらしいが、人形などの身代わりと火を使う方法が良く使われるのだという。
この辺りは日本も朝鮮もやり方は大差ないらしい。
元々、日本の神道の形式と朝鮮の呪術や儀式の形式は良く似たもの多いのだそうだ。
故に日本の祈祷師や拝み屋と朝鮮のそれは素人目には区別がつかないことも多いのだという。
俺にはどちらも良く判らないのだが。
生霊が「場所」に憑くというのは比較的、珍しいらしいのだけれども、
多くの場合は上記の自縛霊に用いた方法と人形を用いた方法の合わせ技で浄化できるのだそうだ。


589 傷(3) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/12(月) 03:57:04 ID:WgOItSsC0
いずれにしても、これらはマサさんの仕事の範疇ではないらしい。
マサさんが扱うのは、儀式を踏まないで神社や祠を破壊して「神」を怒らせてしまったり、
盗まれてきた神社の「御神体」や寺の「ご本尊」を知らずに買ってしまって、
「一族」が根絶やしにされるような祟りを受けた場合だそうだ。
話を聞いた時「そんな罰当たりな真似をする奴がいるのか?」と聞いたら、
朝鮮人には神社仏閣に盗みに入って盗品を売り捌いたり、神社や祠に火を放ったり破壊したりする輩が
今でも少なからずいるそうだ。
自分の中に「神」を持たない故に、他人や他民族の宗教や信仰に対する配慮や、
その対象に対する「畏れ」に著しく欠けているのだと言う。
「畏れ」のあるなしに関わらず、そんな真似をすれば日本人でも地獄行き確実で救い様がないけれど、
先日書いたように高位の「神」の助力が得られない朝鮮人の場合は更に深刻で、
一族全てが祟られて絶えてしまう危険があるらしい。

一族を絶やすようなレベルの祟りになると地脈や鉄杭を用いた方法では
浄化以前の「鎮める」段階で100年、200年といった時間がかかってしまうし、
一族に祟りが行き渡り絶えてしまう。
特に祟りの元となったもの、祈りや信仰の対象であったものを「物」として「金で買う」と言う行為は、非常に強い祟りとなるそうだ。
霊力の高い品物だと移動する先々で祟りを振りまき、「売買」される事により纏った「穢れ」により、非常に性質の悪い悪霊となってしまうのだそうだ。
だから、出所不明のアンティークの品物、特に宗教に関わる品物は売り買いしない方が良いらしい。


590 傷(3) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/12(月) 03:59:00 ID:WgOItSsC0
マサさんが「祟られ屋」だと言うのは、金銭やその他の「対価」を受け取って儀式(内容は判らない)を行い、
その「一族」の代わりにマサさんの「一族」が祟りを受けるからだ。
マサさんと例の「井戸」は「繋がって」いて、マサさんを通して井戸に送り込まれた「祟り神」は
祟りや呪だけを井戸の「悪霊」に吸い取られ、結界の外に拡散してゆくのだと言う
(井戸の中にはマサさんの父親の遺髪と血、マサさんの髪の毛と血と臍の緒が入っているらしい。
これは聞き出すのに苦労した)。
鉄杭の結界は「神」や「清いもの」は外に通すけれども、「穢れ」や「悪霊」は外へは通さない
(外からは引き寄せているらしい)。
簡単に言うとそんな原理らしい。


591 傷(3) ◆cmuuOjbHnQ sage 2007/03/12(月) 04:02:04 ID:WgOItSsC0
マサさんがPと俺を呼び寄せたのは、Pの一族(父方)は朝鮮半島にいた親類縁者が朝鮮戦争で死に絶えてしまっており、
Pは一人っ子で、Pが死ぬとP一族が絶えてしまうかららしい(母方の一族、嫁いで家を出た女は関係ないそうだ)。
俺がPと同様に呪われた原因は、Pから祟りに関連して金銭を受けたことによるらしい。
ただ、事故や病気(癌や心筋梗塞、脳溢血)といった形ではなく、外傷という形で現れた非常に稀なケースらしい。
そして、生霊と女の家の「守り神」がどうやら一体化しているらしいこと。
「神」の霊力も強いが、生霊を飛ばしている女の「霊力」が非常に強いらしい。
しかるべき修行をすればテレビに出ているインチキ霊能者が束になって掛かっても適わないレベル。
その霊力ゆえに「神」と一体化したとも言える。
P家に売り込みに来た祈祷師のオバサンも、市井にいる祈祷師・霊能者の中で、
彼女よりも強い霊力を持つ人は10人いるかどうかというレベルの力を持った人だそうだ。
ただ、傷を受けた原因は俺とPの個人的要因もある。
俺はユキと何度も交わる事により精力や「気」を極度に浪費していた事、Pは深酒をして酒気も抜けていないような状態で、
しかも寝不足で、俺と同様に非常に「気」の力が落ちていたことだ。
俺達のように極端な例は稀だが、薬物や大量のアルコールで精神のコントロールや気力が下がった状態、
荒淫によって精力を浪費した状態で心霊スポットなどに足を踏み入れる事は「祟り」や「憑依」を受ける危険や可能性が
非常に高くなって危険なのだと言う。
634 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 00:46:44 ID:0uC8VoME0

俺の拙い文章に付き合ってくれてありがとうね。
マサさんの所で起こった出来事や、マサさんに聞いた話を書きながらだと、この話、
いつまで経っても終わりそうにないので、「傷」と女の話に話を絞って書きます。
それでも長くなるけれど。
他の話は別の機会に書きたいと思います。
もう少しだけお付き合い下さい。

636 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 00:48:12 ID:0uC8VoME0
マサさんの話によると、「生霊」を飛ばすと言う事は「精力」や「気」といった「生命力」を酷く消耗するらしい。
毎晩フルマラソンを走るくらいの負担が心身に掛かり、確実に本体の命を削り取って行くのだと言う。
普通の人ならば、一月で体調を崩し、三月もすると回復不能なダメージを負ってしまうのだそうだ。
しかも、これは毎晩生霊を「飛ばす」場合。
本体に生霊が戻る事で、生霊の霊力も本体の生命力もかなり元に戻るらしい。
それでも、削られる生命力は深刻らしいのだが。
だから、「結界」内に生霊を閉じ込められて、本体に戻れなくされた女がどんなに強い霊力の持ち主であっても、
そう長くは持たないはずだったらしい。
しかも、女の生霊はあの井戸に少しづつ「吸い取られて」いて、消耗のスピードは更に速まるはずだった。
はじめ「3ヶ月から半年」という期間を示したのは、Pと俺に「娑婆」から離れる覚悟を持たせるのと、
元いた生活に「心」を残させない為だったらしい。
傷が治った時点で、ほぼ全てが終わる予定だったのだ。

638 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 00:50:28 ID:0uC8VoME0
しかし、傷が治って来た時点で話が変わってきた。
女の生霊が消えないのだ。
女の生霊と一体となっている「守護神」は女の霊力を強めてはいても直接「生命力」を強める事はないそうだ。
女はとっくの昔に生命力を使い果たし、霊力を「井戸」に吸い尽くされて命を落として「井戸の中身」の一部に
なっているはずだったのだ。
悪霊が消えない限り俺たちを結界の外に出す事は出来ない。
しかし、どうやら先に俺達の方が危なくなってきたらしい。
背中に書かれた護符の力で守られてはいるが、マサさんが「引き込まれるな」と最初に注意したように、
俺たちもまた「井戸」に霊力や生命力を削り取られているのだ。
事実、70kg台だった俺の体重は60kg前後まで落ち込んでいた。
Pの痩せ方はもっと激しく、100kgを超えていた体重が70kgを割りそうな勢いだった。
このままだと生霊が消える前に俺達の方が先に命を落とす。
しかも、この地で死ねば俺達の魂は井戸の中身の悪霊と一体化してしまうというのだ。
マサさんのところに来てからは連日連夜、恐ろしい思いをしていた。
全てがあの井戸絡み。
命を落とすのは、まあ我慢が出来る(うそ、絶対にいや!)。
しかし、あの井戸の中身になるのは死んでも嫌だ!!!
俺達は悪霊との持久戦に入った。
俺達はマサさんの下で「気力・精力」と「霊力」を高める初歩的な修行をさせられる事になった。
これは、完全に予定外だったらしい。
この為、俺達は一生この手の「霊体験」からは逃れられない「体質」になるらしい。
身を守る方法は教えて貰ったけれどね(サービスだそうだ)。
修行の内容などについては機会を改めて書きたいと思う。

640 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 00:52:40 ID:0uC8VoME0
3ヶ月目に入ったとき、マサさんも流石に焦ってきたらしい。
いくらなんでもこんなに持つはずがないと。
男と女では体の造りが違うように、気の性質も違うそうだ。
セクースした時に男は気力や精力を放出し、女は本能的に男から精力を吸収しているそうだ。
これは他の動物も一緒で、最も極端な例は交尾の後に雌が雄を捕らえて食べてしまう蟷螂だそうだ。
子供を体内で育て、あるいは卵を産む「雌」の普遍的な本能。
セクースした翌日、男はぐったりしているのに女は元気が良くなるのはこの精力のやり取りによる。
(オナニーで一日4・5発抜いても平気なのに、女と1発やっただけで翌日グッタリしてしまう事があるのは
このせいか!と妙に納得した)
それ故に女は男よりも霊力も生命力も強く、生霊や幽霊の類も女の方が圧倒的に多いらしい。
ただ例外もある。
女は絶頂を迎える瞬間だけ気の方向が吸収から放出の方向に変わるそうだ。
この瞬間に女の気を吸収する技法が存在する。
マサさんによると「キンタマ~ωで女の気を吸い取る」らしい。
精気を吸い取られる瞬間に感じる快感は男女共に非常に強いものらしい。
(確かにオナーニよりセクースでイク時の方が気持ちイイよね)
その快楽は時に人を虜にする。
「色情狂」とは、元々の精力が強い人が、精力を放出し吸収される快感に囚われた状態であるらしい。

642 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 00:54:35 ID:0uC8VoME0
話を戻そう。
マサさんは女の生命力が尽きない理由は、女が「風俗嬢」として毎日、数多くの男と交わっているからだと
考えていた。
しかし、例え毎日10人以上の男と交わっても、これ程までには持つはずはないのだという。
これは、ある種の「行」や「技法」を用いて数多くの男から精力を「奪い取っている」と考えなければ説明が
つかない。
しかも、これ程のレベルで精力を吸い取られた男は一度で体を壊し、それでも快楽に囚われて命を落とすまで
女の下に通い続けるだろうと。
しかし、そうなると、これは恨みや呪いの「念」により「無意識」に飛ばされる生霊ではなく、意識的に相手を呪う
「呪詛」の範疇なのだという。
だが、俺達に憑いているのは「生霊」であって「呪詛」ではない。
俺たちがマサさんのところに来て半年が経とうとした時に、マサさんは俺達に言った。
これから女の所に行くと。
俺に女の所に一緒に付いて来いと。


643 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 00:56:09 ID:0uC8VoME0
俺はマサさんにそれは危険なのではないかと言った。
悪霊はかなり弱くなっているが、本体に戻れば相手の霊力・生命力から考えて元の木阿弥に
なってしまうのではないかと。
…俺、取り殺されちゃうよ(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
マサさんは言った。
Pは、自分と俺の「祓い」の為に2人分、2000万円のカネをマサさんに支払っている。
俺を「事件」に巻き込んだのはPだが、金を出す事でPは俺に対する義理を果たし、この事件に関して
俺に対する「因縁」は消えている。
しかし、俺はマサさんに金を支払った訳ではなく、マサさんに対する借り、「因縁」が残っているという。
場合によっては命を落とす危険もあるが「因縁」を消す為にも協力してもらうとマサさんは言った。
Pはマサさんと俺が女に会いに行って帰るまで、道場(敷地内にあった倉庫のような建物)で、
柱に錠と鎖で繋がれた状態で篭る事になった(井戸に引き摺り込まれない為)。



644 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 00:57:04 ID:0uC8VoME0
俺は半年目にして初めて敷地の外に出ることになった。
門の外にマサさんの車がある。
俺は手渡されたアイマスクをして、目を閉じて結界を越えた。
粘り付くような、厚いビニールの膜を押し破るような強い抵抗を感じた。
マサさんに習った「技法」に従って、丹田から両手に「気」を集めて熱を持たせ、
その手で「膜」を破って俺は結界の外に出た。
結界の外に出た瞬間、俺は意識を失った。


645 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 01:01:17 ID:0uC8VoME0
気が付いた時、俺は車の中だった。
運転しているのは行きに付き添ってくれたキムさん。
頭がガンガンする。
酷い船酔いをしたときのように目が回って気持ちが悪い。
「調息」を試みたが全く効果がない。
今にも吐きそうだ。
俺はマサさんに渡されたビニール袋に大量に吐いた。
吐いた後、暫くすると鼻血が出てきた。
「もう少しだから我慢しろ」とマサさんが言う。
キムさんがマサさんに「この兄さん、持たないんじゃないか」と言う。
マサさんが「一通りのことは出来るから大丈夫だ。手伝ってくれ」と答えた。
やがて車は狭い空き地に着いた。
車が一台止まっている。
行きに乗ってきたキムさんの車だ。
若い男が車外でタバコを吸っている。
キムさんに指示されていたのだろう、2L入りのミネラルウォーターのペットボトルが
2本入ったビニール袋をマサさんに渡した。
マサさんはボトルの中身を捨てると神社?の階段を昇って行った。
キムさんは、俺を神社の階段の前の石畳の上に寝かせ、頭頂部と胸に手を当てて、
半年間毎朝行ってきた瞑想と呼吸法が合わさったものを行うように言った。
キムさんの手を通じて頭から冷たい気、胸からは熱い気が入ってきた。
やった事がなければ判らないが、両手に冷・熱両方の気を通す事は非常に難しい。
俺やPなどは「熱」は作れても「冷」の方は殆ど出来ない。
キムさんも俺たちと同様の修行をしたことがあり、恐らくは今でも継続していて高いレベルにあるのだろう。


646 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 01:01:50 ID:0uC8VoME0
暫くするとマサさんが水の詰まったペットボトルを持って階段を下りてきた。
どうにか落ち着いてきた俺は一本目のペットボトルの水を鼻から飲み込み、
限界まで飲み込んだら吐き出すということを3回繰り返した。
2本目のボトルの水は、マサさんとキムさんが、俺の全身に吹き付けた。
それが終わると俺は階段を昇って神社の境内に入り、「激しい」呼吸・瞑想法を行った。
3時間ほど続けると俺は完全に回復した。
若い男が用意してあったGパンとTシャツ、パチ物のMA-1のジャンパーを着て車を乗り換えて俺達は出発した。



647 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 01:03:01 ID:0uC8VoME0
キムさんの家で丸三日休み、俺とマサさんは女のマンションの部屋に向かった。
女はここ暫く出勤していないそうだ。
女の在宅はキムさんの方で確認済みだった。
マサさんがインターホンを鳴らす。
訪問は伝えてあったのだろう、女は俺たちを部屋に招き入れた。
女はやつれていたが、かなりの美人だった。
ちょっと地味だが清楚で上品な雰囲気。
とても風俗で働くタイプには見えない。
やつれて憔悴してはいたが、目には強い力が在った。
非常に綺麗で澄んだ目をしていて、見ているだけで引き込まれそうな魅力がある。
凄まじい霊力を持っていると言われれば納得せざるを得ないものがあった。
しかし、この女からは人を恨むとか呪うといった「邪悪」なものは微塵も感じられなかった。


648 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 01:06:52 ID:0uC8VoME0
ドアを開けたとき女はギョッとしたような顔をしていた。
マサさんと話しをしている時も俺のことをしきりと気にしている様子だった。
思い切って俺は女に理由を尋ねてみた。
女は震える声で語った。
女の話では、ホテルが建って暫く経った頃から、昔住んでいた家の夢を良く見るようになったそうだ。
家の中には幼い自分一人しかいなくて、家族を探して広い家の中を歩き回るのだと言う。
そして、いつの間にか目が覚めて、涙を流しているのだと言う。
ある晩、酷い悪夢を見たそうだ。
風呂場と自分の部屋で繰り返し、何度もレイプされたのだという。
夢と現実の区別が付かないほどリアルな夢だったそうだ。
気が付いた時、自分の手に刀が握られていたそうだ。
彼女は恐怖と怒りや憎しみで我を忘れて、彼女を犯した男を切り殺したと言う。
その男が俺だったと言うのだ。
それ以来、彼女は毎晩悪夢に襲われるようになった。
客に付いた男達が彼女を酷いやり方で襲ってくるのだという。
彼女が恐怖と絶望の絶頂に達した時に手に刀が握られていて、彼女は恐怖と怒りに駆られて、
我を忘れて刀を振るったのだと言う。
しかし、その悪夢は一月ほどすると見なくなったと言う。
その代わりに急に体調が悪くなり、仕事中にボーッとして、接客中の記憶をなくしてしまうことが多くなった。
生理も止まってしまったらしい。
また、彼女は暫くすると新しい悪夢を見るようになったそうだ。
目の前に小さな男の子が2人いて、自分はいつもの刀を持っている。
そして、鬼の形相の亡くなった父親が彼女を棒や鞭で叩きながら目の前の子供を斬り殺せと責める。
父親の責めに負けて刀を振るおうとすると母親の声がしてきて止められるのだという。


649 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 01:09:57 ID:0uC8VoME0
マサさんは女に「あなたのお父様は自殺なさったのではないですか?お母様もそのときに一緒に亡くなられたのではないですか?」と尋ねた。
マサさんが言うとおり、彼女の両親は彼女の父親の無理心中により亡くなっていた。
彼女の父親は朝鮮人に対して激しい差別意識を持って嫌っていたらしい。
しかし、彼女の父親に金を貸したのは在日朝鮮人の老人だったそうだ。
彼女の祖父に戦前世話になった人物で、破格の条件で金を貸してくれていたそうだ。
バブルの絶頂期、手持ちの株などを処分すれば、それまでの借金は十分に返せたと言う。
彼女の母親も強く返済を勧めていたそうだ。
しかし、彼女の父親は「朝鮮人に金を返す必要などない。家族のいない爺さんがくたばればチャラだ」と
借金を踏み倒す気でいたらしい。
彼女の父親の話は聞いていて胸糞の悪くなる話ばかりだった。
彼女も母親は慕っていたが父親の事を嫌っていたようだ。
バブルが弾け彼女の家の資産は大きなマイナスとなった。
マイナスを取り返そうとした父親は悪あがきをして更に傷口を広げた。
金策が尽きた父親は老人に更なる借金を申し込んだが、断られた。
その過程で彼女も借金の連帯保証人となった。
彼女の父親は娘を連帯保証人にしても当たり前で、借金を断った老人と朝鮮人を呪う言葉を吐き続けたそうだ。
間もなく老人は亡くなり、相続した養子も不況の煽りで破産した。
老人の持っていた債権は悪質な回収屋の手に渡った。
土地や屋敷を失い、それでも残った多額の借金に追われ自殺した彼女の父親の遺書には恨み言しか
書かれていなかったそうだ。

彼女は母親の死を知っとき、勤務していた会社の給料では借金の利息も払いきれず、
風俗で働く事が決まったとき自殺を考えたらしい。
しかし、その度に母の霊に止められたそうだ。


650 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 01:12:55 ID:0uC8VoME0
マサさんと俺は彼女の話を聞き、それまでの経緯を全て話した。
マサさんの目は怒っていたが、ふうーと息を大きく吐くと口を開いた。
「これは一種の呪詛ですね。家の代々の守護神を祭神にして、自分の妻を生贄に娘を呪物に仕立てた
悪質な呪詛だ。しかも、特定の人物ではなく朝鮮人なら誰でも良いといった無差別のね。
更に、呪詛はあなた自身にも向けられている。お父上は相当な力をお持ちだったようだが、その魂は地獄に
繋がっているようですね」
呪詛は呪詛を掛けている事、掛けている人物が割れると効力を失うそうだ。
容易に呪詛を返されてしまうからだ。
しかし、本件では呪詛を仕掛けた本人は既に死んでおり、しかもその力は強い。
先ほどから襖の向こう側から猛烈に嫌な気配が漂って来ている。
マサさんは女に「奥の部屋に仏壇か遺骨がありますね?」と尋ねた。
女は仏壇がありますと答えて、襖を開けた。
俺は思わず「うわっ」と言った。
マサさんの「井戸」の周りで「観た」ものと同質の、目には見えないものが仏壇から溢れ出てきていた。
これはやばい!
マサさんは女に位牌と父親の写真を額から出して持って来いと言った。
そして、母親の写真を持って俺と一緒にキムさんの家へ行けという。
状況がかなりやばいことだけは判った。
恐らく、マサさんの言葉で呪詛が破られ、悪霊の本体が動き出したのだ。
俺は女の手を引いて表で待っていたキムさんの車に乗った。
キムさんはすぐに車を発進させた。
キムさんは凄いスピードで車を走らせる。片側2車線の大通りの交差点を赤信号を無視して突っ切る。
背後の交差点からブレーキ音が聞こえる。
信号を3つほど進んでキムさんが車を止めた。
結界の外に出たらしい。
女の部屋を訪れる前に、俺がキムさんの家で寝込んでいる間に、土の露出した土地を探して、
出来るだけ形を整えて結界を張ったのだと言う。
市街地ゆえに結界が予想以上に大きくなってしまったらしい。


652 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 01:16:57 ID:0uC8VoME0
キムさんの家に着くと、俺の腹の中や皮膚の下で蠢く虫のような感覚は消えていた。
体が異常に軽い。
こんなに体調が良いのは何年ぶりだろう?
女の顔も血色が良くなっている。
マサさんは翌朝キムさんの家に現れた。
マサさんは女に「お母様の供養をしてあげてください。それと、神棚を作って実家で祀っていた神様を
大事に扱って下さい。あなたのことを守ってくれるはずですよ」と言った。
女を家に送って部屋を確認すると、これが同じ部屋かと思うくらいに雰囲気が明るく変わっていた。
位牌と女の父親の写真も無くなっていた。
父親の霊がどうなったかは聞かなかったが大方の予想はついた。
マサさんは道具を整えてもう一度「念のための」儀式を行ったが、悪霊の類は食い尽くされて
残っていなかったそうだ。

俺とマサさんは前と同じように車を乗り換えながらPの待つあの場所へ戻った。


653 傷(4) ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/03/13(火) 01:24:08 ID:0uC8VoME0
Pの話だと、マサさんが女の部屋を祓った晩、井戸から耳には聞こえないが頭の中に響き渡るような
地獄の底から響いてくるような低い「鳴き声」が聞こえたそうである。
そして、朝になると体からすうーっと何かが抜け出ていったのを感じたのだという。
それは、井戸に吸い込まれては行かなかったらしい。
土地と俺達の縁を切る儀式を行い、俺達は歩いて結界を越えた。
まるで何もない土地であるかのように、今度は何の抵抗も感じなかった。

俺たちは、往きに立ち寄った電気量販店の駐車場でキムさんの車を待っていた。
車の中で、
俺「あの仏壇の中身は、今は井戸の中なのですか?」
マサ「ああ」
P「井戸から聞こえた声は?」
マサ「鬼の哭き声だ」「あの井戸の中身もいつかは浄化されて消えて無くなる日が来る。
奴らもその日を待ち望んでいる。その日はまた遠くなったけれどな。
お前達に憑いていた悪霊の声なのか、井戸の中にいたものの声なのかは俺にも判らないよ」
「で、久しぶりの娑婆だ。お前達、何がしたい?」
P「酒」
俺「女」
マサさんは鼻で哂った。
キムさんの車がやってきた。
俺達はマサさんの車を降り、去ってゆくマサさんを見送った。


終わり


  


Posted by アマミちゃん(野崎りの)  at 01:33Comments(0)祟られ屋マサさんシリーズ(怖い話)

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アマミちゃん(野崎りの)
アマミちゃん(野崎りの)
小さい頃の夢はマザーテレサとジャンヌダルクでした。
あれから20数年、今では立派なメタボとなりました。